本研究は,混合寡占モデルを用いて,民営化が経済に与える影響を民営化企業の市場退出行動を含めて理論的に考察することを目的とした。また,民営化により,財の品質に生じる影響を調べることにも焦点が当てられた。本年度は,以下の2点において研究が進められた。 第1に,民営化が財の品質に与える影響について混合寡占モデルを用いて分析を行った。民営化後も財の質が維持されるかについては,高品質の財に対する需要がどれだけあるかに依存するとともに,高品質を維持するために要する費用に大きな影響を受けることが明らかとなった。また,民営化された企業が市場から退出する条件を明らかにすることにより,高い品質の財が市場に存在しなくなるケースを考察した。さらに,たとえ民営化企業が退出しなくてもすむ場合でも,財の品質を落とす必要が生じることが示された。これらについては,数値解析等を用いることにより,より明確な結論を示すことができた。 第2に,今後のモデル拡張に欠かせない問題点について,先行研究をもとに洗い出すとともに,それらについてまとめているところである。既存の民営化理論の研究では,市場の規模は不変であると仮定されているものの,現実には企業は自助努力で市場を拡張する努力をしている。このような観点から,企業が宣伝などを通じて市場の拡張に費用を使う状況を考慮にいれて,研究の拡張を図っている。現在,この問題について焦点を当てた研究に取り組み始めたところである。
|