研究課題/領域番号 |
23730318
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
阿萬 弘行 甲南大学, 経済学部, 准教授 (70346906)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 株式市場 / 情報伝達 |
研究概要 |
複数の情報伝達経路が、株式市場のボラティリティに及ぼす効果について、実証的な分析を行った。ボラティリティについては、時系列モデルによる推計ボラティリティよりも信頼性の高い高頻度データを用いた実現volatilityを用いている。情報変数については、企業ディスクロージャーと新聞記事報道を定量化した。主な実証結果では、ディスクロージャー情報の流入は、有意にボラティリティを増加させている。ディスクロージャーとメディア報道は、相互に強化する方向で、ボラティリティを増加させる。これらの結果は、二つの異なるタイプの公開情報の流入が、投資家間の不確実性を増加せることを示唆している。追加的に、企業固有ボラティリティと公開情報流入との関連性を分析した。その結果、両方のタイプの情報伝達は、ともに企業固有ボラティリティを増加せている。しかしながら、その相互効果は、ネガティブな方向へ働いており、ディスクロージャー情報をマスメディアが同時に報道する場合には、市場全体または産業全体にかかわる情報効果をもつことが示唆されている。研究成果は、共著論文として、多数のセミナー・学会において報告し、参加者から内容に関する今後の研究高度化に資する有益なサジェスチョンを得た。(九州ファイナンス研究会、Southwestern Finance Association、応用経済学会) また、Daniel and Titman (2006)が開発した株式リターンの有形情報・無形情報への分解アプローチを活用することにより、企業を取り巻く外生的情報環境と企業の情報開示行動が、どのように株価形成に反映されているか研究した。実証分析結果では、情報環境要因の中でも、利益ボラティリティが高まること、および、企業年齢が低い段階にあることが、無形情報リターンの増加に寄与している。論文は、「甲南経済学論集」において刊行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボラティリティの計測については、森保教授(長崎大学)と共同して行うことにより、効率的な計画遂行が可能となった。幅広い企業群に対して高頻度株価データを用いた分析を行うことに成功している。 公開情報データについては、これまでの研究経験を生かして、新聞記事データベースからの個別企業ごとの記事収集、東証データベースからのディスクロージャー情報収集を効率的に行うことができたため、複数年度にわたり、なおかつ、多数の企業サンプルの情報を利用することができた。 分析方法は、膨大なサンプル数を対象とした回帰分析を行うことは、時間を要するが、今回は比較的シンプルな形での推計方法を用いることにより、主要な実証結果を得ることを優先した。情報伝達プロセスの多様性が金融市場へ及ぼす効果の検証という研究計画の主眼に関して、ボラティリティ研究の中で、実際に、ディスクロージャーと新聞報道という複数の情報伝達経路を、分析の枠組みに組み入れていることに成功しており、進捗状況は順調であると判断できる。 ディスクロージャー情報が有形・無形情報リターンへ及ぼす効果の研究によって、前述のボラティリティ研究によるリスク・不確実性への効果検証とは異なった視点を提供できた。情報伝達経路の多様性の効果を見る上では、CGESデータベースを用いて、ディスクロージャーを、複数のカテゴリーから分析することが役立っており、その意味で、研究目的の達成度を高めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
高頻度データを用いたボラティリティ研究について、現時点において主要な結果は、既に出ている。今後、セミナー、学会で行った研究報告で参加者から提供されたコメント、アドバイスについて検討し、論文内容の高度化・精緻化に活かしていく。主に今後の改訂を検討すべき点として、ボラティリティを、オーバーナイト部分とイントラデイ部分に分割して指標を作成することがある。ただし、オーバーナイトのボラティリティについては、基本的に、一日に2つの観測値(前日終値・当日始値)しか得られないため、工夫が必要である。ディスクロージャー情報については、取引時間外、時間内に公表されたものを区別せずに、一括して当日の情報量として集計している。情報公開のタイミングの差異が、ボラティリティ形成に及ぼす効果を検討していく。マスメディア報道については、今年度は、報道頻度の側面を定量化していたが、報道内容の分析をテキスト分析の手法を取り入れて進めていきたい。現段階において、報道記事の本文データの収集は80%程度終えている。次年度は、形態素解析の適用、および、多変量解析による分析を行う予定である。 ディスクロージャー情報、新聞メディア報道に加えて、テレビ報道データを用いた分析作業を共同研究の中で行っている。次年度は、このテレビ報道研究について論文の原稿を完成させ、セミナー、学会等で報告する段階まで進めていく。情報伝達プロセスの多様性の影響研究という研究課題の目的から考えて、代替的な情報伝達手段としてテレビ報道を加えることは大きな研究上の進展が見込める。特に、テレビ報道は、市場規模などのデータから見て、それがマスメディア業界に占めるシェアは極めて大きいにも関わらず、ファイナンスへの影響研究は限られているため、学術的貢献を期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する研究費が生じた理由は、データベースの利用にあたって、今年度の研究では、すでに保有しているデータベースを活用できたこと、および、共同研究として行った分析では、共同研究者所有のデータベースが利用可能であったことが挙げられる。とくに、財務データ、新聞記事データは、所属機関が契約しているものが利用できたため、効率的な研究費使用が可能となった。また、株式関連の高頻度データは、共同研究者のものを使用している。 次年度では、財務データ、株式データなどについて、より新しい時期を収録したデータベースの契約に研究費を活用し、研究内容をアップデートする。また、テレビ報道データについては、今年度は、2010年のみのデータセットを利用しているが、複数年度に範囲を拡大することにより、分析結果の一般化を図っていく。 今年度は、ボラティリティ分析の研究結果および第一原稿は完成しており、また、次年度は追加的な分析への拡張を予定している。テレビ報道分析については、次年度、第一原稿完成の予定である。したがって、次年度は、研究成果の外部発表のための材料が複数そろうことになる。そのため、国内・海外での研究発表機会へ積極的に応募し、旅費等の必要経費に研究費をあてる。論文そのものについても、原則として、英文での海外投稿を目指しているので、英文校正に研究費を使用する。
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