研究課題/領域番号 |
23730324
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 千映 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (10388415)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イギリス経済史 / イングランド / 産業革命 / 女性労働 / 職業構造 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
本年度はデータの整備とイギリスからの研究者の招聘を主に行った。 本研究では,当時イングランドに存在していた約12,000の教区のうち,1834年の救貧法に関する議会報告書で調査が行われた1,000あまりの教区について,女性の就業に関する情報が得られる最初のセンサスである1841年センサスの個票と連結し,1830年代の女性の就業の趨勢を捉えることを第一の目的としている。 1834年報告書については,女性の就業に関するデータ部分をデジタル化し,計量経済学的手法に耐えるような形での数量化を行った。また,1841年センサスの個票については,既存のデジタルデータがあるノーサンプトンシャーとコーンウォールの教区については,1834年報告書記載の教区(ノーサンプトンシャーの18教区,コーンウォールの30教区)を整理し,女性の就業率や職業構造を算出した。また,その他の州については,www.ancestry.co.ukから画像データを入手し,機械可読な形にデータ入力を進めている。こちらは,既存のデジタルデータに比して格段に時間を必要とする作業であるため,ノーサンプトンシャーやコーンウォールと対照的な州という観点から,南部農業地帯であるベッドフォードシャーと北部毛織物地帯であるヨークシャーウェストライディングから入力を始めている。 また,8月には,ケンブリッジ大学からLeigh Shaw-Taylor氏とJelle van Lottum氏を招聘し,一橋大学名誉教授の斎藤修氏とともに,社会経済史学会近畿部会夏季シンポジウム「工業化と労働 再考:比較史的パースペクティヴ」を組織した。Shaw-Taylor氏と斎藤修氏は工業化にともなう職業構造変化の国際比較を報告し,Lottum氏と山本は,工業化にともなう労働移動について報告した。 9月には史料調査で渡英し,Lottum氏と意見交換も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1834年議会報告書では全部で53項目におよぶ設問があるが,このうち,本研究で利用する女性の就業機会(設問11),女性および児童の賃金水準(設問12),および女性と4人の子ども(14歳,11歳,8歳,5歳を仮定)の労働によって期待しうる所得額(設問13)については,すでにデジタル化を完了した。 1841年センサスのデータ入力に関しては,先述したとおり,ノーサンプトンシャーとコーンウォールについては,48教区について整理を終えている。その他の州に属する教区については,当初,英国エセックス大学におけるデジタル化プロジェクトの成果の利用を考えていたが,1851年から1911年のセンサスのデジタル化を先行し,1841年センサスについてはデジタル化作業を行うかどうか不透明との情報を得ている。したがって,画像データを提供しているancestry.co.ukを利用したデータ整備を進めざるを得ない状況となっている。 ancestry.co.ukでは,センサス個票から得られる情報(住所,氏名,年齢,性別,職業,出生地)のうち,職業を除いた5つの項目については,入力ミスが散見されるもののデジタル化が行われている。このことは,一方で,ある程度の省力化が可能なことを示しており,ベッドフォードシャーの16教区については2週間程度(実質作業日4日程度)で上記5項目の入力を完了した。他方で,職業情報については手入力で進める必要があるが,全体を手入力する場合に比べれば時間の節約が可能であり,これも2日程度の作業日数で終了した。 イギリス人研究者との意見交換についても,社会経済史学会近畿部会の夏季シンポジウムを盛会のうちに終えることができたのは重要な収穫で,今後,情報交流を進める際に必要な,人的なネットワークを構築することができたと考える。引き続き,渡英しての研究報告などを通じて,情報交流を続けたい。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は,パイロット的な形となるかもしれないが,本研究で作成したデータベースを基にした学術論文の執筆を行う。 先述したように,1841年センサスのデジタル化については,エセックス大学でのプロジェクトの完了を待つのではなく,ancestry.co.ukの画像データおよび部分的なデジタルデータに依って進めていく。その際に,既存のデータが存在するノーサンプトンシャー(北部ミッドランドに位置し,近代的な工場はないが,靴下編み工業などの家内工業を持つ)およびコーンウォール(ブリテン島南西端に位置し,スズや銅などの鉱業が盛ん)と対照的な,鉱工業を持たない州なども選択肢に加えて,データベース化を進めたい。また,統計的手法に耐えうるだけのサンプル数を得るために,地理的に近接した州についてもデータベース化を進めていく。 国際交流についても,昨年8月に招聘したケンブリッジ大学のLeigh Shaw-Taylor氏他との協力を進めていきたい。同氏が所属する「人口と社会構造の歴史に関するケンブリッジグループ」では,2012年になって,職業構造の詳細が判明する1841年センサス以前の1817年について,男性の職業構造の推計を発表した(Cambridge Working Papers in Economic and Social History no. 4)。これは,1813年以降,イギリス国教会の教区教会で行われる洗礼の際に,父親の職業を登録することが義務化されたことを利用し,教区に残された洗礼簿から有配偶かつ子どものいる男性の職業構造を推計したものである。同史料からは原則的に父親の職業しか判明しないが,非嫡出子の場合には,母親の職業が記載されるケースもあるという。この情報の共有が可能かについて,探っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度もデータ入力および整理に大学院生のアルバイトを活用したい。2011年度の実績を踏まえて,約40万円の支出を予定している。物品費については,昨年度はコンピュータと史料撮影用のデジタルカメラの購入を予定していたが,デジタルカメラについては購入を見合わせた。デジタルカメラは未刊行史料のデータ収集には不可欠なので,書籍の購入費と合わせて10万円程度を物品費として予定したい。また,国際研究者交流に関連して,2012年9月にケンブリッジ大学で開催予定の日英歴史家会議へ出席することとなっている。そのための旅費として,30万円を計上する。
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