終戦直後の日本人技術者が研究開発を再開するうえで欠かせなかった海外の技術動向をいかにして入手したのかという問題意識のもと、PBレポートと当時呼ばれたアメリカ政府が発行した科学技術調査資料の意義を考察した。同レポートは旧ナチスドイツ占領下地域に展開していた工場に所蔵されていた技術資料であり、特許化すらされていない極秘な内容が多く含まれていた。これを米英の軍事部隊が接収し、本国に持ち去ったものが1950年頃から日本に紹介され始め、やがて国策として米国政府から購入することになった。こうしたPBレポートをめぐる日本国内の動向については先行研究で存在の指摘はあったものの、具体的な分析に乏しく、十分な意義を吟味できていなかった。 本年度は昨年度までに調査した英国議会資料や国会図書館所蔵のPBレポートの現物の内容を検討し、その具体的な動向について調査を進めた。また各種の雑誌記事などからも当時の記録を調査し、技術者がPBレポートに触れた際の驚きの様子を知ることができた。加えて、それ以前の時期までに解決が困難とされていた技術課題が克服された過程を実証的に明らかにした。 本研究は国会図書館憲政資料室に所蔵されているGHQ文書から戦後復興期の日本企業の研究開発を実用化の視点から考察することを目的としている。こうした調査を踏まえ、当該次期のアメリカ政府が行った科学技術政策の主要な柱ともいえるドイツからの技術情報の接収が日本に与えた効果を詳らかにすることに成功した。その成果は、拙稿「PBレポートに関する一考察-第二次世界大戦後におけるドイツ技術情報の接収と日本におけるその活用-」『大阪大学経済学』第64巻第2号、2014年9月、として刊行された。
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