研究課題
最終年度である平成26年度は,主に次の3つの研究活動を展開した.第1に,データセットに適用するひとつの最適なハンドリング手法について,手続きと適用例に関するペーパーを執筆し公開した.具体的には,会議資料や業界紙誌に掲載されている当事者の見解に関するテキストデータから,産地を取り巻く史的文脈を数的に把握する手法である.第2に,追加的な経験的データの収集を重ねながら,各産業集積に関する記述的研究を展開した.本研究のひとつの特徴は,史料に掲載されている産地内の行為主体による過去の発言・見解,業界が置かれていた状況に関する認識,具体的な活動の内容などについて,当事者に適宜確認をとりながら,当時に各行為主体が見ていた社会的世界を描き出す点にある.新たな史料の発見にともない,史料の確かさと解釈を確認するために当事者に追加的なヒアリングを実施した.以上の調査の結果は,産地ごとに研究ノートの形で系統的に記述された.第3に,これまでに組み上げた分析の概念的モデルに沿って比較事例分析を進め,産業集積の再構築過程で作動する社会的メカニズムの抽出を試み,モデルの洗練をはかった.具体的には,まず,2つの対照的な産地に関する再構築過程の社会的メカニズムを検討し,モデルを洗練させる際の基礎とした.その後,残りの3つの産地に関する記述的研究の成果を,ひとつずつ比較照合しながら,モデルの抽象度をコントロールしていった.報告時点での本研究全体の大きな成果は2つである.第1は,これまで産業集積研究において積極的な位置を与えられてこなかった業界や産業集積に特有な制度的文脈を組み込んだ,産業集積の再構築過程を捉える新たな概念的モデルを構築したことである.第2は,産業集積が重ねてきた長期にわたる経験の流列に沿って形作られる業界固有の文脈を数的に把握する基礎的な手法を発表したことである.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち謝辞記載あり 1件)
Discussion Paper Series B, Graduate School of Economics and Business Administration, Hokkaido University
巻: 2014-128 ページ: 1-23