研究課題/領域番号 |
23730339
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀籠 崇 東北大学, 経済学研究科(研究院), 博士研究員 (80547357)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 医療法人 / 経営分析 |
研究概要 |
わが国医療提供体制において中核的な役割を果たしている医療法人の経営の実態に関する調査としては、社団法人日本病院会や社団法人全日本病院協会などの団体による経営分析統計や、厚生労働省による「病院経営指標」などの調査が存在するが、それら調査では、詳細な経営情報を読み取ることが困難であったり〈前2者〉、全体の傾向は把握できるものの、個々の法人の経営的特色が見えづらい〈とくに病院経営指標〉などの問題点が存在していた。 そこで今年度は、東北6県〈青森県、秋田県、岩手県、山形県、宮城県、福島県〉において、少なくともひとつの病院を経営する医療法人の経営実態〈とりわけ財務状況〉を探るべく、該当する医療法人計266法人について、平成20年度から平成22年度にわたる3ヵ年度分の決算届〈事業報告書、貸借対照表、損益計算書、財産目録〉を収集し、エクセルファイルに入力、データベースを作成した。その成果の一部は2012年3月開催の日本経営学会東北部会において報告した。明らかとなったのは以下の4点である。 (1)「医療と福祉の複合的経営が医療法人の経営に正の影響を与える」という先行研究の結論には若干の修正が必要である 。医療・福祉複合的経営の法人のなかでも、とくに病床種別が複合的な法人において、慢性的な赤字体質の法人が少なくない、(2)複数年度にわたる収支状況では、大規模な医療法人を除き、いずれの規模においても満遍なく赤字の法人が存在する。各地域の実情に応じた、医療法人経営にとっての適正規模というものが存在している可能性がある、(3)医療法人の同族経営は経営パフォーマンスにさほど影響を与えていない、(4)法人種別赤字法人数・赤字法人率の結果によれば、一般に公益性が高いとされる種の医療法人ほど赤字法人率は低い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、東北6県において少なくともひとつの病院を経営する医療法人に対する、ガバナンスに関するアンケート調査の実施を、24年度5月に予定していたが、調査協力機関とのスケジュール調整の為、9月に実行するよう計画を変更した。それにともなって、本調査の準備は24年度初頭に行い、24年度に行う予定であった東北6県の医療法人決算届の収集・分析については、計画を前倒しして、23年度に実施した。 また、国立国会図書館所蔵の占領軍文書をもとにした、医療法人制度の個々の規定の形成論理についての検証は、資料収集については完了しているものの、その分析については50%程度の進捗状況である。これは資料分析の途上で、1950年前後より日本における病院ガバナンス論の萌芽が見られ始めたことが明らかとなった為、日本の医療関係者の議論についても検討する必要が生じたことによるものであり、現在も国立国会図書館憲政資料室所蔵のプランゲ文庫の所蔵調査を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度における中心的な研究課題は、東北6県における医療法人の所有構造の実態解明である。(1)社員(出資者)の構成比率及び社員総会の運営状況、(2)役員(理事)の構成比率及び理事会の運営状況、(3)監事の出自と監査の状況、(4)経営上何を重視した経営を行っているのか、(5)経営機構(組織構造)の現状と改善の取り組み状況、についてアンケート調査をもとに分析を行う。ただし、東北6県において少なくとも1つの病院を経営する医療法人は、本年度に実施した医療法人決算届の回収により、全部で266法人であることが明らかとなっている。したがって、アンケートの回収状況によっては十分な分析が困難な場合が予想される。その場合には、東北6県に加え、北関東エリアも調査対象に組み込むことを考えている。 また、平成23年度における研究の途上で、1950年前後より日本における病院ガバナンス論の萌芽が見られ始めたことが明らかとなった為、平成24年度には、国立国会図書館憲政資料室所蔵のGHQ資料の収集とあわせて、プランゲ文庫の所蔵調査を実施することとした。GHQ資料とあわせて分析を行うことで、医療法人制度の確立と、日本の病院におけるガバナンスの問題との関係性ついて明らかにし、現在の医療法人におけるガバナンスの問題の根源について明示できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初予定していた、東北6県において少なくともひとつの病院を経営する医療法人に対する、ガバナンスに関するアンケート調査の実施を、9月に実施するよう計画を変更したことにより生じたものであり、延期したアンケート調査に必要な経費としてあわせて使用する予定である。なお、アンケート調査の準備にかかる物品の購入は平成24年度6月までに完了する予定である。
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