研究概要 |
近年ではハイテク産業を中心として、技術獲得や技術開発を目的としたM&Aや提携が多くなってきている。こうした背景には、研究開発シナジーを働かせたいという企業の意図がある。研究開発シナジーとは、異なる企業が合併することによって、異なるR&Dインプットを新しく組み合わせることが可能となり、以前は実行不可能なプロジェクトが実行可能となり、新しいR&Dアウトプットが生じることを意味する。ただし、複数の企業が合併すれば、自然と研究開発シナジーが生じるわけではなく、そうした研究開発シナジーが生じるには、資源の再配置が必要だと指摘されている。すなわち、合併後に2つの組織をそのままにしていては、研究開発シナジーは生じることはなく、組織の統合を図ることが求められる。 2012年度には2011年度の分析の精緻化を行った。2011年度の分析手法ではサンプル・セレクションの問題に対して、ヘックマン・モデルを利用することで、対応していた。しかし、従属変数がカウント・データであるために、ヘックマン・モデルではモデルの当てはまりに問題があると考えられる。そこで、Miranda and Rabe-Hesketh (2006)によるサンプル・セレクション・ポワソン・モデルを利用し、その問題点に対応した。結果からは、組織の統合の方が、発明者の移動よりも発明者の生産性を低下させるということが明らかとなった。 Miranda, A. and Rabe-Hesketh. S., 2006,”Maximum Likelihood estimation of endogenous switching and sample selection models for binary, ordinal, and count variables,” The Stata Journal, 6, pp.285-308.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の予定は、統計分析を進め、論文執筆にとりかかるというものである。 実際には、統計分析の問題点を踏まえ、より適切な分析手法を取り入れる必要があり、そのために計量経済学の理論を学習し直す必要があり、当初の予定よりもそこに時間をかけることになった。ただし、これは今後、研究を進める上で必要なものだったと考えている。 また、実際に分析をしながら、新たな先行文献を精読し、検証する仮説を修正することができた。そうした意味では、おおむね当初の予定を達成できたと考えている。例えば、青島 (2005) は本研究と同様に技術者の移動に注目し、組織間と組織内の移動の効果の違いを分析しており、非常に参考になるものだった。 以上の点から、分析手法の習得に時間がかかったものの、概ね当初の予定を達成できたと考えている。 青島矢一, 2005,「R&D人材の移動と技術成果」日本労働研究雑誌, No.541, pp.34-48.
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