研究課題/領域番号 |
23730348
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤川 なつこ 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 研究機関研究員 (30527651)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 組織学習 / 高信頼性組織 / 組織事故 / リスク管理 / 原子力発電所 |
研究概要 |
本研究では、高信頼性組織における不測事態に対するマネジメントおよびリスク管理の過程を、組織学習の視点から考察することにより、高信頼性組織の環境変化への適応過程および障害を解明すべく、研究を進めている。 研究実施の初年度である平成23年度は、理論研究に主軸を置き、原子力発電所を含めた高信頼性組織における組織学習がいかなるものであるかを明らかにするために、先行研究のレヴューを通じて、高信頼性組織における組織学習プロセスの特色、すなわちその構成要素と順序を明らかにするとともに、高信頼性組織において学習が阻害される状況の特徴や要因を解明することを目的としてきた。 その研究過程で、組織学習が組織全体に波及しない原因を、組織内の部門間および階層間に生じる時間志向の差異の観点から分析し、さらに、このような組織の学習障害を克服するための方途を、組織デザインの視点から考察した。その研究内容は、論文化し、日本経営診断学会に投稿した。その結果、査読を経て、掲載されるという研究成果を残した。 そこでは、第1に、組織内の部門間および階層間に生じる時間志向の差異によって組織学習プロセスに断絶が生じ、組織学習が個人レベルから集団レベル、組織レベルへと進展しないことを明らかにした。第2に、組織の分化の程度が高まるほど、時間志向の差異も強まるため、組織学習プロセスに断絶が生じる可能性も高くなることを明らかにした。第3に、組織の学習障害は、組織デザイン、すなわち環境の不確定性・多様性と、組織の内部特性(分化-統合のあり方)の適合によって克服できることを示した。 以上のように、平成23年度の研究を通じて、組織学習および組織の学習障害の視点から学習が困難な組織の実態の解明が進められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究においては、組織学習が組織全体に波及しない原因、すなわち組織の学習障害を、組織内の部門間および階層間に生じる時間志向の差異の観点から分析し、さらに、このような組織の学習障害を克服するための方途を、組織デザインの視点から考察することで、論文掲載という一定の成果を残した。 同時に、原子力発電所を含めた高信頼性組織における組織学習がいかなるものであるかを明らかにすべく、高信頼性組織に関する先行研究のレヴューを進めてきた。その結果、高信頼性組織研究に含まれるノーマル・アクシデント理論と高信頼性理論の間の分析の視点の違いや高信頼性組織研究の課題が明らかになった。その研究成果は、「高信頼性組織研究の展開と意義」というタイトルで、平成24年10月に組織学会で報告する予定である。 以上のように、平成23年度においては、理論研究を進展させ、組織の学習障害および高信頼性組織に関する基本的な分析枠組みを構築し、査読論文という成果を上げることに繋がった点は評価できるが、他方で、次年度に実施するアンケート調査およびインタヴュー調査の準備という点では課題を残していることから、研究達成度は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究計画作成後に、東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所における原子力事故という予期せぬ事態が発生した。それにより、日本の原子力発電所を取り巻く環境は一変し、研究計画の大幅な見直しをせざるを得ない状況にある。 すなわち、日本の原子力発電所は、現在過渡期にあり、アンケート調査およびインタヴュー調査の実施が非常に困難な状況にある。したがって、当初の計画では、平成24年度は前年度の理論研究によって構築したモデルを基に、アンケート調査およびインタヴュー調査を実施する計画であったが、事例研究に主軸をおいた研究に研究計画を転換していく必要がある。 平成24年度は、理論研究の進展を通じて、高信頼性組織の特徴を明らかにするとともに、高信頼性組織の構築に向けて、スリーマイル島やチェルノブイリといった過去の原子力発電所における事故の比較、分析を、組織の学習障害という視点から行っていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1.物品費:高信頼性組織および組織事故に関する文献・資料の購入2.旅費:研究協力者との打ち合わせ、調査、成果発表3.人件費・謝金:研究補助、ヒアリング調査4.その他:英文校閲
|