研究課題/領域番号 |
23730348
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研究機関 | 四日市大学 |
研究代表者 |
藤川 なつこ 四日市大学, 経済学部, 講師 (30527651)
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キーワード | 高信頼性組織 / 高危険性組織 / 組織事故 / リスク管理 / 危機管理 / 組織学習 / 経営組織 |
研究概要 |
本研究では、原子力発電所のような高危険性組織の不測事態に対するマネジメントおよびリスク管理の過程を、経営組織論の視点から考察することで、高危険性組織が高信頼性組織となるために求められる経営管理を解明すべく、研究を進めている。 研究実施の初年度である平成23年度は、組織学習が組織全体に波及しない原因を、組織内の部門間および階層間に生じる時間志向の差異の観点から分析した。また、こうした時間志向の差異がもたらす組織の学習障害を克服するための方途を、組織デザインの視点から考察した。その研究内容は、論文化し、日本経営診断学会誌に査読を経て、掲載されるという研究成果を残した。 研究実施の2年目である平成24年度は、高信頼性組織研究の中でも、“組織は事故(アクシデント)を未然に防ぐことができるのか”という問いに対して2つの対立する見方をするノーマル・アクシデント理論と高信頼性理論に焦点をあて、両者の根底にある分析の視点の違いや重要な論点を比較した上で、両者を統合的視点から考察した。その結果として、社会に重大な影響を及ぼす組織を、事故から学び、それを防ぐ組織にしていくためには、ノーマル・アクシデント理論が示す社会から組織事故を見る視点(マクロ・アプローチ)と、高信頼性理論が示す組織内部から組織事故を見る視点(ミクロ・アプローチ)を統合的に考察し、組織を発展させていくことが求められていることを示した。さらに、高危険性組織のマネジメントには、平時と有事、安定性と柔軟性、効率性と信頼性、といった二重性の管理が強く要求されることを明らかにした。その研究内容は、組織学会中部支部例会と日本情報経営学会中部支部部会で学会報告するとともに、論文化し、経済科学に掲載されるという研究成果を残した。 以上のように、平成23年度および平成24年度の研究を通じて、高信頼性組織の事故防止過程の解明が進められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究においては、組織学習が組織全体に波及しない原因、すなわち組織の学習障害を、組織内の部門間および階層間に生じる時間志向の差異の観点から分析し、さらに、このような組織の学習障害を克服するための方途を、組織デザインの視点から考察することで、論文掲載という一定の成果を残した。 平成24年度は、高信頼性組織研究の中でもノーマル・アクシデント理論と高信頼性理論に焦点をあて、両者の根底にある分析の視点の違いや重要な論点を比較した上で、両者を統合的視点から考察することで、論文掲載という一定の成果を残した。 平成23年度および平成24年度の研究を通して、高信頼性組織研究の生成、発展の歴史や高危険性組織が高信頼性組織となるための条件、高信頼性組織研究の知見の一般組織への適応可能性の課題、が明らかになった。これらの研究成果は、平成25年5月に経営学史学会、平成25年9月に国際学会、平成25年10月に日本経営診断学会で、報告する予定である。 以上のように、平成23年度および平成24年度においては、理論研究を進展させ、高信頼性組織の事故防止過程に関する基本的な分析枠組みを構築し、2本の論文掲載という成果を上げることに繋がった点は評価できるが、他方で、こうした理論研究を実証していくという点では課題を残していることから、研究達成度は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究計画作成後に、東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所における原子力事故という予期せぬ事態が発生した。それにより、日本の原子力発電所を取り巻く環境は一変し、研究計画の大幅な見直しをせざるを得ない状況となった。このように、日本の原子力発電所は、現在過渡期にあり、アンケート調査およびインタヴュー調査の実施が非常に困難な状況にある。 したがって、当初の計画では、理論研究によって構築したモデルを基に、アンケート調査およびインタヴュー調査を実施する計画であったが、研究計画を変更し、理論研究に主軸を置き、事例研究によって理論を実証していく研究に研究計画を転換する。 平成25年度は、理論研究のさらなる進展を通じて、高信頼性組織の条件を明らかにするとともに、高信頼性組織の構築に向けて、高信頼性組織研究の知見の一般組織への適応可能性を探究していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.物品費:高信頼性組織および組織事故に関する文献・資料、パソコンの購入 2.旅費:研究協力者との打ち合わせ、調査、成果発表 3.人件費・謝金:研究補助、ヒアリング調査 4.その他:英文校閲
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