研究課題/領域番号 |
23730355
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
三好 祐輔 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (80372598)
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キーワード | 経営学 / ファイナンス / 法社会学 |
研究概要 |
平成24年度は、利害関係者間の紛争問題解決手段のひとつである、日本の民事訴訟にテーマを絞り、弁護士と依頼者の訴訟契約についての実証研究を実施した。日本では近年、司法に国民の意思を反映させるという理念の下に、さまざまな司法制度の改革が行われた。急激な弁護士数の増加や弁護士報酬の改定が訴訟にもたらした影響は、民事訴訟の件数の増加や弁護士利用率の増加につながっていることが、司法統計年報の資料により把握することができた。 訴訟データを時系列的に概観するだけでなく、弁護士の民事訴訟に関わる割合の増加、弁護士数の増加などの要因がきっかけとなり、弁護士による誘発需要が引き起こされているかどうかについて考察する必要がある。そこで、リスク回避度に着目して構築した前年度のモデルを精緻化する作業を進め、そこから仮説を新たに2つ導出した。そして、都道府県データや日本弁護士連合会を通して集計した弁護士報酬のアンケートに基づいたデータによる実証分析を行った。 本年度の実証分析の実施により、分かったことは以下のことである。これまで弁護士は、潜在的な需要があるのにも関わらず積極的に需要を掘り起こそうとはしなかった。しかし、近年の司法制度改革により、利害関係者間の紛争解決のため、弁護士が関与するようになり、訴訟活用意欲に応じた訴訟拡大をもたらした点で政策の有用性は認められる。たとえば、近年の司法制度改革により弁護士だけでなく司法書士が訴訟代理サービス市場に参入できるようになったこと、さらに弁護士報酬規定の廃止により、以前よりも着手金を安くする代わりに、成功報酬率を引き上げるという形で法的サービスが提供されるようになったことが原因で、誘発需要を喚起していることが確かめられた。なお、これらの成果は、査読付の学術雑誌、日本経済研究において次年度に公表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、前年度の資料収集に関する司法統計に関するデータベースの構築作業を進行しつつ、法制度の変更(たとえば、2004年の弁護士報酬規定の自由化)によって、従来の弁護士の訴訟引受け行動に変化が生じているか、計量分析及びモデルの構築に時間を費やした。この研究成果は、最終年度にあたる平成25年7月に査読付き学術雑誌、日本経済研究において公表される予定である。 また、申請者は、本研究課題の交付申請書に基づき、我が国の企業の利害関係者間の紛争解決の方法の模索をしながら、ゲーム理論を用いた別のプロジェクト(平成20年に採択された科研のテーマで遣り残していた企業不祥事の解決策に関する研究)を同時に平行して進めてきた。その成果が、研究論文集-教育系・文系の九州地区国立大学間連携論文集-Vol.6, No.1(2012)に査読を経て受理された。この研究論文の内容は、1992 年の証券取引法改正により、株式市場における損失補てんを禁止する立法が施行された。その後、株式市場への投資は伸び悩み、現状では株式投資収益率が国債保有による収益率を下回る状況となった。ここでは、過去に行われていた証券会社による損失補てんが、シグナリング効果によって情報に対する品質保証をもたらし、損失補てんを受けない個人投資家を株式投資に呼び込む効果があることを理論モデルによって示したものである。 さらに、上記の論文とは別の研究論文4本を収録した著書「法と紛争解決の実証分析-法と経済学のアプローチ-」が、査読付きの学術図書である大阪大学出版会から、2013年2月末に総389頁の内容で刊行された。以上の点から、研究課題に沿って順調に研究成果が公表できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、本研究の最終年度に当たることから、これまでの研究の蓄積を活かして、利害関係者間の紛争問題解決策の総まとめをする予定である。たとえば、従来の研究が扱ってきた、株主と経営者間の情報の非対称性が原因となって生じるプリンシパル・エージェントモデルとして分析するのではなく、株主が経営者に提示する将来の企業収益に連動するようなボーナス報酬体系と不法行為への誘引のトレード・オフの問題をうまく回避できるように、経営者の報酬システムをどのようにデザインするべきかについて議論する予定である。 具体的には、内部者と外部者の情報量の格差以外に、どのような企業が少数派株主を排除して利益供与をしているのか、経営者の誘因が、株式所有構造、経営者の在職期間に大きく関わっているかどうかに関する実証研究を行う。 そして、前年度構築した理論モデルが、実際の経済データにおいても正しいかどうか確認するだけでなく、与えられたデータに対して適切な推定方法が用いられているかどうかを検証する必要がある。そこで、頑健性テストを通して実証分析の客観的正当性を与えることができるのだろうか、具体的には、不祥事が発覚した企業のみを分析の対象としたとしても、サンプル・セレクションバイアスの問題が回避されているのか、平均値の検定を通して検討して行く予定である。 また、欧米との比較を通し、日本の司法制度の改革が経済社会に与えた影響について包括的に検討すると共に、利害関係者間の紛争問題を解決する方法について、今後の展望を探る年度としたい。そして、従来どおり、月に2回程度の研究会における参加、研究報告・討議を中心的な研究活動の場として想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の理論的・実証的分析の研究成果として、具体的なルール改正提言を学術雑誌に投稿し、国内では平成14年以来月一回の頻度で開催されている「法と経済分析のワークショップ」ないし法と経済学会等での報告を目指す。また、これまでの申請者が実施してきた研究成果が、日本特有のものではなく、欧米諸国にも普遍的に該当するのか、相互比較をする必要がある。そのため、申請者自らが欧米諸国に出向き、不祥事企業の開示資料収集を行ない、海外企業の財務データを整理し、その特徴を把握する予定である。 前年度は、法と経済学の研究者の研究発表を聞く機会には恵まれた。しかし、学術論文を作成するため、実証分析の結果とモデルの整合性をどう説明すればいいのか、その考察に時間を要したため、自らの研究を学会発表等で公開するといった意味で、十分な広報活動ができなかった。次年度は、日本語での研究成果の公表にとどまらず、英語で論文を書くことに挑戦し、海外のワークショップを含め、Asian Law and Economics Association等の国際学会での積極的に学会での自らの研究発表を行ない、研究成果が、海外の査読付き学術雑誌に掲載されるように努力をしたいと考えている。
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