弁護士の訴訟に関わる割合の増加、弁護士数の増加などの要因がきっかけとなり、弁護士による誘発需要が引き起こされているかどうかについて、リスク回避度に着目したモデル分析を通して、都道府県データや弁護士アンケートに基づいたデータによる実証分析を行った。分析結果によれば、近年の弁護士数の増加により、簡易裁判で扱う訴訟について弁護士が関与するようになり、着手金を下げて代わりに成功報酬を高めるという形で誘発需要を喚起していることが分かった。 今年度は、依頼者が弁護士に訴訟を依頼するプリンシパル・エージェントモデルを用いて定式化し、裁判に関する予測が依頼者と弁護士の間で異なるといった情報の非対称性の下、弁護士の情報提供によって、潜在的需要を誘発するという理論モデルを精緻化するのに成功した。また、最高裁判所事務総局から提供していただいた、民事訴訟件数、弁護士の裁判に関わった割合、一件あたりの訴訟金額等の、都道府県ベースでの資料を電子データ化し、パネルデータとして実証分析に用いた。これまで弁護士は、簡易裁判では訴訟額が低額ゆえ、潜在的な需要があるのにも関わらず積極的に需要を掘り起こそうとはしなかった。だが、近年の司法制度改革により弁護士だけでなく司法書士が訴訟代理サービス市場に参入できるようになったこと、以前よりも着手金を安くする司法サービスが提供されるようになったことが原因で、誘発需要を喚起している。また、弁護士の増加によって利用率は増加している結果も得られていることを、日本弁護士連合会の協力の下に行ったアンケートからも、今回の申請者の研究の結果が間違っていなかったことを示せた。これらの研究結果は、査読有りの学術雑誌である日本経済研究に、[司法制度改革による民事訴訟誘発需要仮説の実証分析」、大阪大学出版会から刊行された「法と紛争解決の実証分析-法と経済学のアプローチ-」に公表されている。
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