研究期間の最終年度にあたる本年度は、前年度に実施したアンケート調査と本年度に実施したフォローアップ調査によるデータを用いて、採用選考における組織的公正が、どのように応募者の組織に感じる魅力や、複数内定時の組織選択に影響しているかについて分析を行うとともに、どのような採用選考手法が手続的公正が担保された採用方法といえるのかも分析した。 これらの分析の結果、応募者が組織に感じる魅力は採用選考における手続的公正の認知から規定されることがわかった。また、複数内定時の組織選択には採用選考の手続的公正が影響していることも確認された。これらの結果は海外で実施されてきた先行研究と一致しているが、複数内定時の組織選択に関する効果は、組織の魅力を媒介して表れるという結果が本研究では得られた。これは先行研究で確認されていない。そもそも先行研究では組織選択に対するフィールド研究はほとんど行われていないが、そうした研究でもパートタイムへの就職が対象であったのに対し、本研究では長期雇用の正社員への採用を検討したことで違いが得られた可能性がある。本研究の結果からは組織的公正の諸側面のうちとくに情報共有が重要であることが確認されたが、このことと選考手法に関する分析結果を合わせると、応募者1名での面接を行ったり、面接者を情報共有に焦点を合わせて訓練したりすることが、複数内定時の組織選択を促すと示唆される。 本年度は研究計画に記したとおり、上記の分析結果を社会政策学会第124回大会にて報告するとともに(「新卒採用選考における<決めさせる選考>の実証的検討」)、研究者だけでなく実務家も交えて開催した人材採用研究会第一回研究会でも報告した。これらの口頭発表を経たのち、本研究を論文としてまとめ、国際誌に投稿した。
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