研究課題/領域番号 |
23730363
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
生稲 史彦 筑波大学, システム情報系, 准教授 (10377046)
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キーワード | コンテンツ / イノベーション / デジタル化 / アジア圏 / 国際比較 / ソーシャル / プラットフォーム / サービス化 |
研究概要 |
今年度の研究では、昨年度の研究を継続し、(1)国内での企業調査と資料収集、(2)アジア圏を視野に入れた研究会への参加、(3)研究者の招聘を行った。これは、「アジア圏のデジタルコンテンツ市場の成立を視野に入れた、日本企業の活動を実証的に明らかにする」という本研究の問題意識に応えるためである。 まず、国内の企業調査では、ゲーム分野を中心に調査を進めた。カジュアルゲーム(ソーシャルゲーム)に関わっている企業を含めた数社へのヒアリングを行った。これにより、日本企業が国内はもちろんのこと、海外(アジア圏)において、いかにデジタルコンテンツのビジネスを展開しているのかを調べた。それと併行して、国内外のデジタルコンテンツ市場に関する資料収集を進めた。 つぎに、自身の調査結果の普遍性を確認し、不足している事実を補うために、研究会へ参加した。研究会に参加した目的は、ひとつには、アニメーションや映画といった他のデジタルコンテンツを研究対象としている研究者と研究成果を交換することであった。もう一つには、アジアのデジタルコンテンツ市場を知悉している研究者、実務家から情報を得ることであった。主に参加した研究会は、特定非営利活動法人グローバル・ビジネス・リサーチ・センターの常設研究会であるコンテンツ産業研究会とコンテンツビジネス研究会、コンテンツ海外展開情報基盤整備委員会(経済産業省から一般財団法人デジタルコンテンツ協会が受託)であった。 第3に、アジア圏各国を含む海外のデジタルコンテンツ市場に詳しい研究者を招聘し、研究成果を交換した。台湾の羅准教授(世新大学)、韓国の魏晶玄教授(ソウル中央大学、Visiting Professor of UCLA)などである。 以上の研究成果は、研究会発表、査読付き論文として、随時、発表した。来年度中には論文の発表に加え、書籍を上梓し、海外の学会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が順調に推移している背景には、実務面での変化がある。一つには、コンテンツのデジタル化、オンライン(インターネットを通じた)サービス化が進み、国境を越えて企業活動が行われている。もう一つには、この世界規模のデジタルコンテンツ市場の変化の中で、日本市場と日本企業が一定のプレゼンスを有している。 こうした変化が生じているため、日本での企業調査が進めやすく、有意義である。また、アジアを含む世界各国の情報、データも国内で入手可能になってきた。同時に、日本で活動する企業は、国内市場だけでは成長に限界があり、行き詰まりが生じる可能性も認識している。そこで、実務家がこれまで以上にアジアを含む世界のデジタルコンテンツ市場の動向に関心を寄せている。そのため、研究会への参加によって、実務家から多くの情報を得ることができている。さらに、日本市場と日本企業のプレゼンスが低くないことにより、海外の研究者も日本のデジタルコンテンツの動向に関心を寄せている。そのため、海外からの招聘、研究成果の交換が促された。 本研究の場合、昨年度(平成23年度)の時点で、企業調査の項目、調査対象とする企業リスト、収集すべき資料を絞り込んでいた。したがって、上記のようなデジタルコンテンツ市場の変化を捉え、学術的な成果に纏め上げることができていると考えている。それゆえ本研究を計画最終年度(平成25年度)まで継続すれば、当初の研究目的である「アジア圏のデジタルコンテンツ市場の成立を視野に入れた、日本企業の活動を実証的に明らかにする」ことが可能になろう。その意味で、「おおむね順調に進展している」といえる。 ただし、研究対象分野の変化の速さにより、国内調査が優先され、海外(アジア圏各国)での現地調査は不十分に留まっている。この点は、研究計画を見直し、主にアジア圏各国の現状に詳しい研究者と、研究成果をして補っていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成25年度)は、これまでの調査のフォローアップをしつつ、研究成果を取りまとめる。平成23年度と平成24年度に行った研究成果に基づいて、アジア圏市場の成立可能性と、その中での日本企業の活動領域を明らかにする。 まず、国内を中心に企業調査を継続する。対象は主にゲーム分野であり、家庭用ゲーム機向けゲーム(ゲームソフト、コンソールゲーム)だけではなく、ソーシャルゲームも対象にして、現状と今後の可能性を明らかにしていく。くわえて、ゲーム以外のコンテンツも適宜、調査対象に加えていく。 つぎに、研究会開催、研究者招聘も継続する。実務家、研究者と研究成果を交換し、不足している知見を補う。その際、本年度と同じく、アジア圏各国を含む海外のデジタルコンテンツ市場に詳しい研究者を招聘し、本研究の目的にかなうような知見を得ることに努める。 最後に、研究成果の取りまとめに力を注ぐ。具体的には、(a)研究書の出版、(b)海外学会での発表を予定している。(a)研究書の出版は、同志社大学の河島伸子教授と共に書籍の編集、執筆を進め、年度内に刊行する。同書では、デジタルコンテンツの現状分析を踏まえた、今後の展望と政策対応を提示することになっている。研究書の出版を通じて、「真の意味で豊かな文化を創造できる国、企業、個人のふるまいは、どうあるべきか」を、広く社会に問いたい。他方、(b)海外学会での発表では、アメリカ、ヨーロッパの研究者、実務家に向けて研究成果を発信する。デジタルコンテンツに関する実務的な関心は世界各国で高いものの、日本の現状を踏まえた学術的な知見が、海外に向けて、適切に発信されているとは言い難い。そのため、国際的な研究者のネットワークが構築されておらず、国際比較研究が実現されていない。そこで、海外学会で発表することにより、国際的な研究成果の交換、国際比較研究の礎を築く契機を作りたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」で述べたように、次年度の研究では、国内調査、海外からの研究者の招聘、海外学会での発表を行う。これらの研究活動の遂行のために、研究費の支出が必要となる。 まず、調査、研究者招聘、海外学会参加のために、旅費が必要となる。第1に、1回5万円程度の旅費を要する調査を5回程度実施したい。第2に、1人15万円程度を要する研究者招聘を3回程度行いたい。第3に、1回50万円程度を要する海外学会に、最低でも1回参加したい。したがって、旅費として合計120万円程の支出が必要である。 つぎに、調査結果を取りまとめたり、収集した資料を整理したり、研究成果を翻訳したりするために、2~3名程度の大学院生の協力を得たい。そのために人件費の支出が必要となる。規定額の時給(1,470円)で、1日4時間、月平均16時間(4日間)、のべ200時間程度の研究協力を得るために、30万円程度の支出を見込んでいる。 最後に、調査および海外での学会発表を遂行するために、PCなどの情報機器と消耗品の購入、通信費が必要である。情報機器の購入に20万円程度、その他の物品の購入に10万円程度を支出し、合計で30万円程度が必要である。 以上の旅費、人件費、物品費の合計は、180万円程度になる予定である。当初予定の次年度(平成25年度)の交付希望額は91万円であったが、今年度までに使用しなかった繰り越し分を用いて不足分を補いたい。それにより、研究を計画通りに進め、有意義なものにしたい。
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