研究課題/領域番号 |
23730370
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
小川 憲彦 法政大学, 経営学部, 准教授 (30434179)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 経営管理 |
研究概要 |
本研究の目的は経営組織における「伸び代ある人材」の個人特性を把握した上で、そのような人材の成長・活躍を促す組織的条件(組織文化と個人の価値観の適合性の効果)について明らかにすることである。23年度においては、個人特性の把握と組織文化の次元同定を行った。 具体的には、まず、「伸び代のある人材」の個人特性に関する仮説構築のため、人事部門を中心とした企業15社への聞き取り調査を行った。それらを文書化したデータと他の43社分の既存の文献データに基づいて、伸び代ある人材の30の仮説的特性を抽出した。さらに、それら特性について上場企業をはじめとした人事部門に質問票調査を行い392社からの回答に基づいて、「モチベーション水準」、「実践的創造力」、「チームワークの力」、「リーダーシップの力」、「積極的主体性」、「コミュニケーション能力」、および「印象管理能力」の7つの特性へと集約した。 この上で、D社(n=386)とN社(n=383)について、7つの伸び代特性と3期分の賞与の査定平均(D社)、主観的個人業績、組織コミットメント等の成果指標(N社)との関係について外部妥当性を検討し、N社については、ある程度の関連性が見出された。 一方で、既に文献サーベイによって仮定された組織の価値観(組織文化)について、同様の392社からのデータによって、(1)変革重視(2)集団主義(3)長期判断重視(4)スピード重視(5)分析的態度重視(6)感覚重視(7)結果重視(8)過程重視(9)自律性重視(10)家族主義(11)上意下達重視(12)質重視(13)慎重さ重視(14)事務的の14次元へ集約した。これに基づいたD社とN社の調査では、組織文化の適合性の前提として、下位部門におけるサブ・カルチャーの有無やその相違の大きさについて検討した。この結果、下位文化の存在はごく軽微なものであり、組織と個人との適合性把握の前提条件がある程度満たされうることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に計画したように、伸び代ある人材の仮説的な個人特性が実証的に同定され尺度として準備された。その成果は現在学会発表準備中である。また伸び代ある人材が生きる組織的条件として組織文化と個人の価値観との適合性が仮定され、その次元同定が実証された(小川・大里, 2011; 大里・小川,2011)。 それら尺度の整備が行われた上で、二社については結果の個別フィードバックを行った結果、さらなるデータ収集に関する協力を得られることが現段階で確認されている。 また伸び代ある人材の具体的な行動の効果とその際の組織的作用の重要性の検討(小川,2012a)ならびに組織文化の調整効果の検討(小川,2012b)に関しては既に論文として執筆されており、英文校正を経て投稿準備がなされている。協力企業向けの報告書も現在ほぼ執筆が終わっており、送付準備中である。従って、計画は概ね順調であると評価した。 小川憲彦・大里大助(2011) 「2. 組織文化の測定を通した新規学卒者の組織マッチング(45-47頁)」『日本型人的資源の測定論 創造性・組織文化・リーダーシップに関する日本発のメジャメント・メソッドの探求』『経営行動科学学会第14回年次大会発表論文集』43-48頁。大里大助・小川憲彦(2011)「A社における組織文化と下位文化」『人材育成学会第9回年次大会論文集』111-114頁。 小川憲彦(2012a)「組織社会化戦術とプロアクティブ行動の相対的影響力―入社1年目従業員の縦断的データからドミナンス分析を用いて―」イノベーションマネジメント研究センターワーキング・ペーパー、No.121。小川憲彦(2012b)「組織社会化戦術と役割志向性の関係における個人学習の媒介効果と組織文化の調整効果‐変革志向の人材をいかに育成するか‐」イノベーションマネジメント研究センターワーキング・ペーパー、No.125。
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今後の研究の推進方策 |
残す課題は、見出された個人特性と、組織-個人間の価値観適合、ならびに両者の相互作用に関する外部妥当性の検証であるが、これは24年度の課題として計画しており、今年度実行する予定である。 以下はその研究推進方策について、実行項目を列挙する。(1)見出された伸び代ある人材の個人特性仮説の外部妥当性指標の検討、(2)その測定および妥当性の検討、(3)伸び代ある人材が伸びやすい組織環境としての組織-個人間の価値観適合の測定とその妥当性の検討、である (1)と(2)について、具体的には、伸び代の測定従業員個人の自己成長指標の測定と、個々人への会社(人事ないし上司)の伸び代評価(潜在能力評価と自社での最終職位予測、10年後の戦力評価)との関連性についてデータ収集を行うことで分析を行うが、そうした測定の実行可能性は上記で説明したように、既に協力企業が存在するため、高いと考えている。 (3)についても、上記の二社で実行予定である。適合性の測定には、どの値を組織の代表値と捉えるのかについて諸説あるが、平均値、経営者の価値観、人事部なりのあるべき値などを複数用いて、差の二乗値により測定する予定である。また、個人特性と適合性の交互作用についても分析を考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
必ずしも必要額が全て満たされているわけではないので、具体的な予算配分を行うと持ち出し分が出るが、大まかな配分は以下のとおりである。 成果公表や調査、ならびに打ち合わせなどのための海外ならびに国内向けの宿泊費や旅費として少なくとも500千円程度は必要であろう。 また謝金については、英文校正費として300千円程度、継続調査(二度目の調査)を行う際のWeb調査項目の変更費用や紙面での質問票調査費用や調査協力企業へのフィードバックレポートの送付として300千円程度、成果公表の一環としてホームページ作成依頼費(200千円程度)などを計画している。 設備備品については、最低限必要なハードは既に準備したため不要である。ただし、消耗品になる必要な文献資料やソフト、雑貨等はその都度調達する必要がある。資料複写費等のその他項目を含めて100千円程度を計画している。 不足分が生じた場合、予算内で収める際にはホームページの作成などは断念する必要があるかもしれない。
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