我が国の新卒採用の実態について探求するプロセスでなされた聞き取り調査の結果、日本企業で一般的な新卒主義では、ある程度の長期勤続を前提に、個々の人材の「伸び代」を評価しようとしていた。どのような人材を「伸び代がある」と評価するのかについて、最も基本的な要素はいわゆる一般知的能力の高低であった。 しかし一方で、良い人材ではあるが「自社向きである」とか「競合他社や他業界向き」といった言及も踏まえると、偏差値等で一元的に評価可能な一般知的能力よりも、もう少し複雑な伸び代判断の基準、ある程度、自社で今後も活躍していけるかどうかの基準が会社ごとにあるように思われた。以上のような問題意識を踏まえ、どのような組織でどのような人材に伸び代があると評価されるのかについて、企業の特徴と人材の性格特性とに注目して探求を行った。 43社分の関連文書、16社人事部への聞き取り調査、および上場企業392社(回収率12.4%)への質問票調査から①伸び代ある人材の性格特性②人材を育てる環境としての組織特性、とりわけ組織文化(組織の価値観)③評価される人材の性格特性と組織文化との関連が探求された。 この結果、①伸び代ある人材の性格特性は、積極的主体性、モチベーション、コミュニケーション能力、リーダーシップ、チームワークの力、実践的創造力に集約された。また、②人材を育てる組織環境としての組織文化には、革新性、集団主義、長期重視、スピード、分析的等の14次元が見出された。組織文化に基づくクラスター分析によって、組織環境はA.日本的堅実型、B.日本的革新型、C.結果主義的機械型に三分されたが、評価される性格特性に類型による差はなかった。つまりいずれの組織環境であっても伸び代ある人材の特性は共通していた。特に、積極的主体性とモチベーションが高い値を示していた。
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