M&Aの実施は企業境界の引き直しを伴い、企業のイノベーション活動の根幹に関わる研究開発部門にも影響を及ぼすであろう。本研究では、M&A実施後の研究開発部門の変化および当該企業を取り巻く研究開発環境等の変化に注目し、M&Aの実施形態別にM&A実施後の研究開発マネジメントのあり方と業績との関連を明らかにした。その際、企業を対象に実施した調査から取得したデータと、企業データベースから取得したデータを用いて、統計的な分析を行った。 分析の結果、水平統合型のM&Aを実施した企業は、M&Aによって技術標準化の可能性が増大した際に、並行して当該市場に関連する研究開発領域に資源を集中させた場合は売上高の向上がみられるが、逆に、新しい研究開発領域でのプロジェクトを立ち上げた場合は、売上高は低下していた。多角化型のM&Aを実施した企業では、研究開発に関する企業内部の情報源が多様化した場合に、特定の研究開発領域へ資源を集中させると売上高が向上するが、研究開発に関する企業内部および企業外部の情報源が多様化した場合に、この技術機会を活かすべく従来とは異なる領域での研究開発プロジェクトを立ち上げることは、売上高に負の影響を及ぼしていた。これらの結果は、M&Aの実施に伴って生じ得るイノベーションの決定要因の変化を成長要因としていかにマネジメントするかによって、結果が大きく異なることを示している。また、水平統合型のM&Aを実施した場合であっても、多角化型のM&Aを実施した場合であっても、新しい研究開発領域でのプロジェクトの立ち上げではなく、これまで取り組んできた領域の延長線上にある研究開発領域に資源を集中させることが重要であることがわかる。垂直型のM&Aを実施した企業では、特定の研究開発領域への資源の集中を実施している企業は、同時に新しい研究開発領域でのプロジェクトの立ち上げも行っていることが示唆された。
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