研究実績の概要 |
本研究の目的は、先行研究において解明されてこなかった製品コンセプトの変動メカニズムに関する論理を構築することであった。単一事例の事例分析を複数行うことにより、ドミナントデザイン形成以降に、企業がどのように製品コンセプトを変動させるのか、そのメカニズムを探索的に構築することを試みようとした。 既存研究では、これまで支配的だった製品価値を再定義し、新しい競争要因へ移行することによって、新しい市場を創造することが論じられてきた(Hamel, 2000; Kim and Mauborgne, 2005)。ただし、これらは、静態的な分析やツールで、いかにして新しい競争要因を生み出すのかという動的なメカニズムとして提示されているわけではない。 そこで本研究は、デジタルカメラ産業のカシオ計算機と家庭用テレビゲーム機産業の任天堂の事例分析に準拠し、基盤技術の非保有に着目して、各々の企業の製品開発プロセスを分析した。その過程において、基盤技術を保有しないがゆえに、高画質撮影や演算処理能力という製品属性で競合企業に対抗することに疑問を持ち、基盤デバイスの調達では、その機能性能を抑えた。そして、基盤デバイスではなく、新たな競争要因を思索した。その際には、企業が考える製品の原点に立ち返り、既存とは異なる要因を優先した。こうした開発における優先順位の変化の背景には、従来ゲーム機が持つコンセプトから新しいコンセプトへの転換があったと考えられる。 つまり、本稿は基盤技術の非保有に着目し、基盤技術を保有しないからこそ、新しい差別化要因を探索する必要性が生まれ、過去の製品開発を参照しながら、アイディアをもとに新たな製品コンセプトを形成し、組織的危機感という心理的エネルギーが製品コンセプトの実現を後押しするプロセスとして、製品コンセプト転換が起こる動態的なメカニズムを一つの推論として示した。
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