自動車の電動化・電子化の進展は,既存の産業プレーヤー以外にも参入の可能性を開いている。H25年度は3つのEVベンチャーを事例に取り上げ,その参入の経緯,仕組みと競争優位の源泉について明らかにした。3つのベンチャーは,二段階の組織間協業によってオープン・イノベーション戦略を推進しており,自動車関連のサービス業から機械工業へと転身することで存立基盤を確立しようとしていることが明らかになった。まず,第一段階の組織間協業である緩やかな紐帯を通じた法人化によって,個々の中小企業が得意とする専門性を結集し,企業規模と経営資源の制約を克服することに成功した。そして第二段階の組織間協業であるAPEV加盟により,業界標準の中に個々の競争力を位置づけることが可能になり,潜在成長性の大きいEV関連ビジネスへのアクセス権を得ることに成功した。組織間協業を通じたオープン・イノベーション戦略の採用は,経営資源の制約が大きい中小企業であっても,より速くより確実に新規参入を成し遂げる上で有効な手段であることが明らかになった。また3つの事例ではいずれも,組織間協業を通じて企業外部からの技術並びに知識を内部のそれらと結びつけ事業化するという,オープン・イノベーション戦略におけるインバウンド型の特徴が見られた。それだけではなく,一部のベンチャーでは自らのノウハウをコンバージョンキットとして標準化し,フランチャイズ方式によってそれを広めようとしたり,またAPEVを通じてコンバージョンEVの規格化を進めたりといったアウトバウンド型の萌芽も確認することができた。このオープン・イノベーションの活用が,今後の自動車産業での競争を左右する重要な概念となりそうである。
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