研究課題/領域番号 |
23730397
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
高木 俊雄 沖縄大学, 法経学部, 准教授 (80409482)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 経営学 / 実践としての戦略 / SaP / 制度 / 正当性 |
研究概要 |
戦略論では、2000年前後から「実践としての戦略(Strategy as Practice; SaP)」という議論が、欧州の研究コミュニティで発展を見せている。SaP とは、PoterやBarneyの理論のような経済学的な含意に留まらず、実践を通じた「人々の振る舞い(people do)」として戦略を捉えることで、経営学として独自の戦略論に関する理論基盤やレリバントな研究含意を見出す方法論を検討しようとする一連の研究群のことを指す(Johnson et al., 2007)。 しかしながら、SaP の議論は、戦略をどの位相で捉えるのかによって全く異なった研究の展開を見せる。具体的には、(1)既存の戦略論のアプローチであるプロセス論の延長としてSaP を捉える視点、(2)企業実践における規範としての制度を梃子とした戦略の視点、そして(3)企業が「戦略」という言葉を用いることでどのような実践を可能にしているのか、という視点が存在する。このことから本研究では、上述の3 つの観点からSaP を考察することで既存のSaP 研究の多様性を整理するとともに、なぜこのようなさまざまな研究視点が生じてきたのか、すなわち、(4)戦略論が戦略論の実践の中でいかにして構築されてきたのかという視点についても考察することを射程においている。 このうち、平成23年度では、戦略論の代表的なアプローチであるプロセス論を精緻化する立場から捉えられるSaP 研究について、内容学派の問題点を指摘するとともに専門経営者の意思決定問題を問い直す理論的意義を示すことについての理論的意義についてサーベイすることを行った。それとともに、このような理論的意義の一方で、戦略の審級者としての研究者がなぜ滑り込んでいったのかという問題(滑り込み問題)について批判的に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に設定した課題は、理論研究、調査研究ともほぼ実施した。そのため、「おおむね順調に進展している」といえよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成23年度に実施した(1)のプロセス論としてのSaPのほか、(2)制度としての戦略、(3)企業の正統性を担保する「戦略」の戦略的利用、(4)戦略「論」の実践について研究を進める予定である。 (2)制度としての戦略に関してであるが、これは、企業が参照する規範としての制度が同一の行動を生み出すとは限らない。むしろ、多様な利害に基づき制度を読み解き多様な解釈とそれに基づく行動が生ずる。その際、当然ながらその制度に基づいた戦略行動も生ずるし、またその制度の裏を読み解く戦略的な行動も生ずるという考えに基づき、制度を企業の実践のうちに捉えなおし、そこで可能になる戦略の多様性について示すことが必要になる。このことについて平成24年度に研究を行う予定である。 (3) 企業の正統性を担保する「戦略」の戦略的利用に関してであるが、平成23年度で既存の戦略論の批判的検討を行ったが、その一方で企業は「戦略」を語ることにより自身が優位になるように戦略的に「戦略」を用いている。この、正統性を担保するための「戦略」の戦略的利用について平成24年度に実施する予定である。 また、平成25年度では、(4)戦略「論」の実践に取り掛かる。なぜなら、戦略論のこのような(1)~(3)の特徴の背景には、適切な戦略の設定こそが組織のパフォーマンスを向上させるという前提が存在しているためであると言えよう(Chandler, 1962)。つまり、研究者が用いる戦略という言説にはそもそも合理性が存在しており、それは観察者である研究者が戦略と認めることにより戦略論として成立するという考えが暗黙的に形成されているのである。 そのため、戦略論自体にはどのような規範が潜んでおり、そしてどのようにそれが強化されてきたのかについて戦略論の学説史を追うことにより明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、理論的研究と共に、研究代表者が以前から行ってきたビジネスソリューション企業、およびICT企業を用いてフィールドワークを行う予定である。ビジネスソリューション企業を対象にしたフィールドワークでは、人材育成部門が自部門が実施したい人材育成戦略をトップマネジメントに承認させる際に、これまでの自社の社内制度、そして競争環境下の状況をいかにして正統性を付与させつつ説明し、承認させていくかについて論じていく。またICT企業を対象にしたフィールドワークでは、「戦略」という言説がいかに多様に用いられており、そこでどのような利用がなされているのかについて示していく。なお、これら対象先については、既に関係者から許可を得ており、研究を展開させる際の問題はないと考える。
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