研究課題/領域番号 |
23730407
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
中野 香織 駒澤大学, 経営学部, 講師 (20434269)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 商学 / マーケティング / 広告 / マーケティング・コミュニケーション / 符号化変動性仮説 / クロスメディア / 相乗効果 |
研究概要 |
本研究では、複数メディアによる相乗効果の生じるメカニズムを検証するため、記憶に関する「符号化変動性仮説」に注目する。取り組むべき課題は大きく二つに分けられる。(1)「符号化変動性仮説」が説明する記憶促進のメカニズムの検証、および(2)「符号化変動性仮説」に基づく情報処理プロセスモデルの検討である。「符号化変動性仮説」はStammerjohan et al. (2004)が複数メディアによる相乗効果を説明する説の一つとして提示した。もとは心理学の理論で、Midigan(1969)とMelton(1967;1970)によって提唱された。分散効果を説明する理論の一つが符号化変動性仮説であり、記憶時の符号化の手がかりが多いためとされる。本年度に取り組んだ内容は以下のとおりである。課題(1)については、「符号化変動性仮説」を中心に、心理学における記憶について文献研究を行った。研究代表者の専門領域はマーケティングであり、心理学領域の文献研究の蓄積がないため、これらの文献研究の意義は大きい。課題(2)については、複数メディアの情報処理プロセスモデルを検討するため、過去に調査したデータを用いて、メディア接触の段階別反応を取り入れたモデルの構築を行った。その成果は、2011年7月の日本広告学会関東部会にて発表し、その内容を2011年7月に論文「接触順序を考慮したクロスメディア情報処理モデルの検証 ―マス広告からウェブサイトへの誘導―」『Direct Marketing Review』(日本ダイレクトマーケティング学会)(中野・松本 2011)としてまとめた。これらの研究から得られた知見は、接するメディアの順序効果が存在すること、および最初に接したメディアの違いによって情報処理プロセスが異なること、の2点である。本研究では、このモデルを精緻化し、情報処理プロセスモデルの構築を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年~24年度にかけて、課題(1)「符号化変動性仮説」が説明する記憶促進のメカニズムの検証、について取り組む。符号化変動性仮説によれば、符号化の手がかりが多いと記憶されやすいという。手がかりの水準は、文脈的成素、構造的成素、記述的成素に構造化されている(Glenberg 1977;1979)。広告メディアに応用すると、メディアの種類が多い方が複雑で記憶されやすいと考えられるため、相乗効果が生じるメカニズムの一つを明らかにする予定である。具体的なステップは、文献研究、予備調査、および本調査である。文献研究については、北尾(2002)のレビューをもとに、符号化変動性仮説に関する主要論文を収集した。その他、長期記憶における符号化に関する文献収集も行った。しかし、本年度は予備調査まで行う予定であったものの、文献研究にとどまっている。その理由は、2つ挙げられる。一点目は、本年度に課題(2)「符号化変動性仮説」に基づく情報処理プロセスモデルの検討にも取り組んだことである。研究計画では、この課題は平成25年度に取り組む予定であった。しかし、課題(1)と課題(2)は相互に関連が深いため、課題(1)を取り組んだ後に課題(2)に取り組むのではなく、同時に取り組むほうが研究を進めやすいと判断したためである。二点目は、本年度に、他の研究助成が受理されたことである。日本ダイレクトマーケティング学会自主研究プロジェクト「メディア・エンゲージメントを応用したショッピングサイトへの誘導要因の分析」である。研究代表者がこの研究プロジェクトの代表者も務めているため、当初の予定よりも時間配分が減少した。しかし、この研究プロジェクトは平成24年6月で終了する。その後は予定どおりの時間を確保することができるため、問題はないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、文献研究をもとにして、実験の手続き、手がかりの水準による効果の違いなどを広告メディアに応用し、予備調査および本調査を実施する。予備調査は、学生20名×4グループ(合計80名)を対象に行う。単一メディア提示グループ、複数メディア提示グループ(3パターン)と、手がかりの水準を操作して広告再生を測定する。中野・松本 (2011)からメディア接触の順序効果の存在が明らかとなったため、複数メディア提示の場合は、接触順序も考慮したい。調査用の広告は、既存の製品では事前知識によるバイアスが生じるため、未知の製品を素材とする。そのため、テレビCMは地方限定もしくは海外のCMを加工して用いる。印刷広告は当該CMの一部をもとに制作する。ウェブサイトはそれらを素材としてダミーのウェブサイトを制作する。製品カテゴリーは現在検討中である。中野(2008)では焼酎を用いて30代の被験者を対象としたが、本研究における被験者は学生を予定しているため、学生に馴染みのある製品カテゴリーにする予定である。本調査は、予備調査の分析結果をもとに実験方法の修正を行い、学生30名×4グループ(合計120名)を対象に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に調査素材の制作、調査の謝金と補助、文献購入などに用いる予定である。(1)調査素材の制作:CMの購入および加工、印刷広告の制作(調査用CMの一部を用いて加工)、ウェブサイトの制作などを計上する。(2)調査の謝金と補助:予備調査では80名、本調査では120名を対象とするため、それぞれ被験者への謝金が必要となる。また、調査を実施するにあたり、補助人員および調査データ入力の謝金も必要となる。(3)文献購入など:本年度に記憶に関する文献収集は行ったが、次年度も引き続き文献研究を行う必要があるため、文献購入、印刷費などの雑費も計上する。
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