研究課題/領域番号 |
23730410
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
久保 知一 中央大学, 商学部, 准教授 (40376843)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 小売業態 / イノベーション / 多属性モデル / 組織能力 |
研究概要 |
2011年度は、小売業態の新制度派的分析を目指して、理論的研究を行った。当初の予定通り、小売業態を小売サービスの組み合わせと捉えるアイデアと、それを組織能力に結びつけるアイデアに関連した領域について、集中的にレビューを行った。この研究の理論的基礎は新制度派アプローチに基づくチャネル研究にある。2011年度はこの領域の学術論文集の編集を行い、出版した。この仕事は、小売業態が消費者に提供する小売サービスの提供ノウハウに関する研究と位置づけられる。企業のノウハウはそれ自体がアウトソーシングして契約的に入手することも出来る生産要素である。競争力のある小売業態は、このノウハウを様々な形で独占的に保有・蓄積している。取引費用モデル、組織能力モデル、所有権理論、アーキテクチャ論などの検討を通じて、組織能力に関する独自の検討を行った。近年の研究は「小売業態」を同様な小売サービスの組み合わせからなるカテゴリーとしてとらえており、この研究の当初のアイデアにもこの最近の研究潮流を組み入れる必要性が生じた。その結果、当初に想定していた多属性モデルと組織能力に関する文献研究のみならず、小売業態を目的的に捉える事業の定義に関する研究や、社会的構成物と捉えるカテゴリー化に関する研究にも領域を広げた文献レビューを行った。上記以外の実績として、第1に、マーケティング・メトリクスに関する代表的なテキストの翻訳を行い、我が国に紹介した。この書物は小売経営の多彩な側面を測定するメトリクスを多様に含みつつも、類書の少ないものであり、学会に貢献しうるものである。第2に、本研究課題と同様の研究アプローチを卸売業者について適用した研究報告を国内学会にて行った。第3に、小売業態のフランチャイズ展開における直営店・フランチャイズ店比率に関する共同研究を行い、国際学会での発表がアクセプトされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していた1年目の実施計画は、小売業態進化のモデルの改良に取り組むことであった。小売業態を小売サービスの組み合わせと見なして、動態的なイノベーションを分析する多属性モデルの既存研究を踏まえて、研究代表者がこれまでに取り組んできた新制度派的な組織能力のコンセプトを組み込んだモデルを開発した。このモデルは研究代表者が前回取り組んだ科学研究費補助金若手研究(B)のテーマである「我が国の卸売流通システムの変革に関するミクロ的研究」の研究結果を受け継いだものである。しかし、研究を進める中で、それまで別の研究領域と考えていた「事業の定義」もしくはカテゴライゼーションが小売業態の研究にあたっても無視できない重要な要因であることが分かってきた。そこで、当初の予定に加えて、上記2点に関する文献レビューも行い、多属性モデルと関連させる作業を試みた。当初は1年目に消費者調査を行う予定であったが、上記のように理論面で考慮すべき事項が生じたため、1年目では実施できなかった。この点は次年度の課題として持ち越されることになった。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度の理論研究で明らかになったように、小売サービスの質と量の組み合わせとしてある小売業態を把握する場合、その小売業態というカテゴリーの中にも小売サービスの組み合わせが微妙に異なる多種多様な小売企業が存在する。ある小売企業が何らかのイノベーションを行って新たな小売サービスを追加したとしても、その小売企業が既存の小売業態のカテゴリーとして認識されるか、あるいは新たな小売業態を創造するイノベーションとして見なされるか、という問題が研究の結果、新たに生じてきた。こうした問題は、小売サービスの組み合わせとして小売業態を把握するという多属性モデル的な研究アプローチでは扱うことができず、多属性モデルが解決すべき問題点と見なされる。モデルの改良の糸口は売り手側からのものと買い手側からのものが挙げられよう。売り手側からの糸口として、小売企業自らによる事業の定義、すなわち、誰に何をどのように提供するのかという主体的な設定がある。それに対して買い手側については、消費者側のカテゴライゼーションを考慮することが挙げられよう。異なる小売業態が同じ製品を販売することは頻繁に観察されるが、消費者がそれらを同じ小売業態とみなすか、あるいは異なる小売業態と見なすかということは、消費者がどのようなカテゴライゼーションを行っているかに依存すると考えられるからである。2012年度はこの研究を踏まえて、消費者側と小売企業側の両面での実証的な研究を行う予定である。消費者側については、ウェブサイトを用いたアンケート調査によって小売業態のカテゴライゼーションに関する研究を行い、小売企業側についてはヒアリングを中心として事業の定義に関する研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のように、2012年度は実証的な研究を中心に行う。したがって、研究費は主に、消費者調査のためのウェブ調査と、小売企業の実態把握のためのヒアリングの費用として支出される予定である。なお、消費者ウェブ調査は、2011年度に予定していたものを2012年度に持ち越したものである。
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