研究課題/領域番号 |
23730422
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
岩本 明憲 関西大学, 商学部, 准教授 (10527112)
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キーワード | 再販売価格維持行為 / 再販売価格維持制度 / 英国 / 日本 / 補填理論 |
研究概要 |
平成24年度は、主に我が国における再販売価格維持行為・制度の学説・理論研究に従事した。その目的は、主に2つある。第一に、我が国の再販制度と理論研究との関連性を明らかにすること、第二に、欧米の研究が日本の再販研究に与えた影響を明らかにする、ことである。当該年度の研究では、我が国において再販売価格維持行為・制度の研究が始まった1930年代まで遡り、1980年代までの研究を渉猟・発見・整序することを行った。 その研究成果は以下の3点に要約される。第一に、我が国の再販研究は、1930年代に米国の各州において活発化した公正取引法の制定に伴い米国のマーケティング論のテキストの中で紹介されるようなった素朴で簡便な理論を紹介するところからスタートし、我が国において独占禁止法が制定された1947年までは同様の状況が続いたこと、第二に、1950年代に入って独禁法下で再販売価格維持行為が適用除外の扱いになり、実質上再販制度が開始したのに伴い、各種の審判において企業の実際的・具体的な再販売価格維持行為が係争対象になったこと、および、1948年に英国において独禁法にあたる「独占および制限的慣行(調査及び規制)法」が制定され、再販売価格維持制度が英国で研究されるようになったことを契機に、イギリスの再販研究の成果が紹介されたこと、第三に、中野(1969)を以て、初期の日本の再販理論が確立したこと、第四に1970年代以降は、米国でのシカゴ学派の台頭を受けて、我が国の再販研究はその内容を紹介するだけに留まるようになり、オリジナルの理論が生成されることがなくなったこと、である。また、我が国において無批判に容認されている書籍の返品制度に関しては、80年代に入るまで全く研究されておらず、また80年代以降の研究も過去の再販理論との関連付けが不明確であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的の達成度に関しては、当初設定された目的を順調かつ着実にクリアしているものの、一部に遅れが生じている。今年度における研究の遅延の主要な原因は、我が国における再販研究を渉猟したレビュー論文が皆無であり、またデータベースでは発見できない資料が商業論・経済学・産業組織論・マーケティング論・流通論のテキストなどに四散していたために、分析対象の文献を発見することに時間と労力を要したことが挙げられる。一部の資料は国立国会図書館でしか閲覧・コピーできないことも作業効率を大きく阻害した。 また当初から予想された事態ではあるが、米国ではシカゴ学派の登場以降、産業組織論の分野において膨大な数の再販研究が存在し、これら先行研究の渉猟が非常に多大な時間を要する点も挙げられる。 逆に、我が国の書籍の再販制度に長年付随してきた返品制度に関しては欧米の研究はほとんど見られず、我が国においては80年代に若干見られるのであるが、そのルーツを探る作業に手間取ったことも研究の遅延の一因である。とはいえ、平成24年度の研究を通じて、我が国では、書籍の返品制度は理論的にほとんど分析されておらず、書籍再販制度との関連づけも不十分であることが間接的に証明された格好である。 ただし、当初の研究目的は着実に進行しているともいえる。平成23年度は英国書籍再販制度の成り立ちの経緯に関する研究を、平成24年度は我が国における書籍再販制度と再販研究との関連性を明らかにしたことは、双方とも既存研究では決して見られない成果である。したがって平成25年度は、これまでの研究蓄積を統合・集約して様々な形で公表・発表したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、以下の2つの研究を中心に据える方針である。第1に、書籍取引における返品制の登場の経緯を明らかにすることで、書籍再販制度と返品制の位置づけを定式化することである。この課題は本来昨年度に実施する予定であったが、研究が遅延したため、本年度の主要な研究課題に据える。 第2に、我が国の書籍再販制度および返品制度の関連性を意識しつつ、近年の電子書籍化の動きが上記の両制度に及ぼす理論的・実際的影響についての考察する予定である。ここ数年、我が国において書籍の電子書籍化は一進一退の状況であり、また新たな端末が登場して市場が絶えず変化している等の原因で静学的な分析が困難であるが、本研究では書籍再販制度と返品制度を不可分のものとしてではなく、切り離し可能な制度として捉え、既存研究の成果を批判的に利用しつつ、電子書籍化が我が国の書籍再販制度に及ぼすインパクトを明らかにする予定である。 また、昨年に引き続き、我が国の書籍再販制度および電子書籍化が離島の書籍流通に及ぼしている「現在進行形の」影響を明らかにするために、離島や限界集落におけるフィールドワークを実施する予定である。昨年は北海道の書籍流通の現状を調査したが、電子書籍化の影響はほとんど見られず、実店舗を経由する場合、輸送費の負担を(取次が)店側に押し付けるという歪んだ状況生んでいる。これらは書籍再販制度および返品制度がもたらす負の側面と考えられ、この問題を顕在化させ分析の俎上に乗せるためにも書店経営者への直接のインタビューや現地での調査が必要であると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度については、昨年諸事情により叶わなかった英国のケンブリッジ大学およびオクスフォード大学、そしてアイルランドのダブリン大学への出張行い、英国書籍再販制度に関する史料を発掘・入手したいと考えている。これらの図書館には、英国書籍再販制度および返品制度成立の社会的・経済的背景を探る上で重要な史料が大量に貯蔵されており、これらは日本にはほとんど存在せず、図書館外への持ち出しもコピー機の使用も不可能だからである。また英国における返品制度の研究はその存在が知られておらず、その意味で、一次史料の発掘を計る上でも長期の英国出張が必要であると考えている。 また、研究成果を英語で執筆および発表するために、ネイティブスピーカーによる英文のチェックに研究費を使用したいと考えている。 その他の用途としては、これまでに収集した膨大な資料をデジタル保存し、それぞれを整理し、持ち運び可能とし、いつでも研究資料をスピーディーに取り出せることを可能にするために、資料および文献の電子化を進める計画である。そのため、スキャナおよび整理・閲覧が用意なタッチパネル式のパソコン(Windows8搭載)の購入を計画している。 また、出張時などにネット環境が整わないこともあるため、無線のWifiルーターの購入を計画している。これに加えて、研究資料のコピーや必要な文献の購入を予定しており、これらに残りの研究費を充てる計画である。
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