本研究の目的は、株式市場における税金情報の有用性を実証的に分析することである。平成24年度は、まず前年度に主として行った繰延税金資産に係る評価性引当額の情報内容に関する分析結果を編著書の中にまとめた。次に、税金関連の情報の1つである会計利益と課税所得の差額(以下、BTD)に着目した分析を行った。BTDは利益の質を評価する上で有用な指標であり、両者の乖離が著しく大きい企業の利益の質は相対的に低いと考えられている。しかし、なぜBTD情報が利益の質を評価する上で有効であるのかは必ずしも明らかにされていないため、BTDの大きさと企業属性の関係を分析した。その結果、会計利益の水準はBTDの大きさによってそれほど変化しないが、課税所得の水準はBTDが負であるほど大きく、それが正であるほど小さいことが明らかとなった。これは、企業が業績好調時に利益を圧縮し、業績悪化時に利益を捻出していることを示唆する。実際、BTDが負であるほど、売上高成長率は高く、それが正であるほど売上高成長率は低くなることが確認された。また、BTDが著しく負の企業は特別損失を多額に計上しており、BTDが著しく正の企業は不規則に特別損失を計上していないことも明らかとなり、BTD情報は経営者による特別損益項目を活用した利益平準化行動を補足する可能性があることが示唆された。さらに、株式市場はこうしたBTDに含まれる情報内容を価格に織り込んでいることも示された。また、本研究で予定していた限界税率を用いた分析はデータベースの構築の遅れにより有効な分析結果を得ることができなかった。そのため、これについては継続的な研究課題としたい。
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