研究実績の概要 |
本研究では,当初,コーポレートガバナンスと会計行動(主に利益マネジメント)の関係の考察を目指したが,分析の進展とともに,その背後にある企業属性である事業内容との関わりの下でのに関心を寄せるようになり,その方向での研究を進めた. 研究の結果は「事業内容と利益マネジメント―利益マネジメントの業種間比較を通じて―」としてとりまとめ,日本管理会計学会の機関誌の管理会計学(2015年,第23巻,1号,査読付)に投稿の上,採択された.そこでは,日本の上場企業における業種間の利益マネジメントの水準と傾向の比較を通じて,事業内容と利益マネジメントの関係を解明することを目的した.そして,各業種の利益マネジメントを,利益マネジメントの国際比較研究の方法を援用して定量化した上で比較検討を実施した.日本の金融業を除く上場企業の2004年から2011年までの25,208企業-年を対象とする検証の結果,証券コード協議会が定めた業種別分類の中分類(33分類)に基づく業種間で,利益マネジメントの平均的な水準および傾向に顕著な差異が観察され,さらに企業に対する規制,企業規模,資金調達方法,会計上のフレキシビリティがこうした差異に影響を及ぼす要因となっていることが示唆された.また,これらの結果は異なる業種分類(日経業種分類・中分類)を用いた場合でも頑健であることが見出された. 当初研究目的は必ずしも達成されたとは言い難いが,コーポレートガバナンスと会計行動に係る関係の背後にある構造的な問題の一端を明らかにすることができた点で,意義のある研究を実施できたものと思料する.
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