環境管理会計は、1990年代からアメリカやドイツを中心に開発されてきた。日本でも1999年から通商産業省(当時)が環境管理会計手法の開発を進めており、その中心的手法となったのがマテリアルフローコスト会計(MFCA)である。これまでは、手法の精緻化などの技術的側面の研究が進められてきたが、MFCAが企業に採用されることで組織にどのような変化をもたらすのか、また手法それ自体の変化のプロセスについては明らかにされてこなかった。そこで、2000年代初めから2010年代初めにかけての約10年間、MFCAを導入し、活用してきたA社を対象に、インタビューや公表資料などでの調査をもとに、MFCAが創造した可視性がA社の中でのどのように受容・変容していったのかについて分析を行った。 その結果、MFCAという環境管理会計手法、ひいては計算手法が、組織コンテクストから影響を受けると同時に、コンテクストそのものを創造していくプロセスが明らかになった。この計算手法を取り巻く組織コンテクストは、人的なものだけではない。MFCAがマテリアルフロー情報の収集というインプットの側面と、計算結果の指標というアウトプットの側面でA社内共通のフレームワークを提供できたこと、そしてMFCAのロスに対する考え方がA社の生産活動の思想の育成につながったことが、A社内での普及につながったと考えられる。それは、A社においてMFCAの普及に中心的に携わった人間がいなくなったあとも、資源生産性向上の活動を動機付けるという基本的精神は持続していることからも、MFCAという計算手法は、それを求める人的ネットワークによって影響を受ける面と、計算手法として持続する面があることが明らかになった。
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