研究概要 |
本研究の目的は、日本企業の配当政策が利益調整行動および株式市場に与える影響を実証的に解明することである。近年、配当政策とearnings managementを組み合わせた研究が散見されるが、それらのほとんどが、異常発生高加算前利益を独立変数、異常発生高を従属変数とするbacking out methodに依拠している。この方法は、計量経済学上だけでなく、異常発生高の代わりにランダム変数をあてても必ず帰無仮説が棄却されるなど実証的にも大きな問題をはらんでいる。 そこで最終年度では、この問題を回避するために、株価を従属変数とする価値関連性分析を行った。具体的には、増益と増配のコロボレーション効果に対して、特別損益や異常発生高がどのような影響を与えているのかを実証分析した。2001年~2012年の3月期決算企業、延べ9,631個の増益サンプルに対して、Ohlson (2001) に依拠した回帰モデルを推定した結果、特別損益による増益達成はコロボレーション効果を追加的に減じないが、異常発生高による増益達成はコロボレーション効果を追加的に減じるという事実を発見した。この証拠は、市場が増益の品質を勘案しながら増配の評価を行っていることを示している。 本研究の証拠は、利益と配当のコロボレーション効果を分析する際、もっぱら純利益を用いてきた先行研究に対して示唆を提供する。もちろん、研究目的に依存するだろうが、やみくもに配当の源泉(純利益)だけを分析対象とするのは賢明ではない。株価最大化を念頭に置くのであれば、コロボレーション効果が最大限発揮されるのはどの段階の利益なのかの検討が必要である。異常発生高がコロボレーション効果を追加的に減じ、また異常発生高加算前税引後経常利益の持続性が最も高いという本研究の証拠は、異常発生高加算前税引後経常利益がその有力候補の1つであることを示している。
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