研究課題/領域番号 |
23730447
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
庵谷 治男 長崎大学, 経済学部, 助教 (20548721)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 現場での利益管理 / 現場マネジャー / 会計情報 |
研究概要 |
現場レベルを中心に実践されている利益管理で、会計情報がいかなる役割を果たしているのかについてフィールド・スタディを用いて明らかにした。具体的には、誰を対象にし((1)会計情報の利用主体)、どのような作業プロセスに適用しているのか((2)会計情報の適用対象)、そしてそれはどのように実施されているのか((3)会計情報の適用方法)の3点について調査を行った。また、現場レベルへのマネジメント・コントロール概念の拡張という議論を踏まえた考察を合わせて実施した。リサーチサイトはシティホテルK社の宿泊部門であり、現場マネジャーを中心にのべ9名にインタビューを実施した。 調査結果から、現場レベルの利益管理では、現場マネジャーが会計情報伝達の中心的な役割を果たし、現場レベルのマネジメント・コントロールの中で従業員の行動を利益目標の達成に仕向けるメカニズムが形成されていることが明らかとなった。現場マネジャーは、会計情報と行動との関連性を実現利益と未実現利益の視点から識別し、従業員の理解を促進する工夫も観察された。また、現場マネジャーは従業員が効率性(利益志向)と柔軟性(顧客志向)のバランスを取れるよう、日常的に監視し、即座に対応策をとるよう行動していることも確認された。 これまで、ミニ・プロフィットセンターを中心とした既存研究は会計情報が現場マネジャーの利益意識を醸成する役割があるという指摘に留まっていた。それに対して、本研究の貢献は、現場マネジャーが行動と会計情報との関連性を識別しながら、従業員に対して会計情報伝達の中心的な役割を果たしていることを明らかにしたことである。 成果は、日本原価計算研究学会(全国大会)、Management Accounting Research Group Conference(UK)および日本会計研究学会(九州部会)にて発表し、また学術論文としてもまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の達成度は、概ね研究計画通りに推移しているといえる。当該年度では、K社へのインタビュー調査を実施し、考察と分析によって現場の利益管理の実態を解明することができた。また、調査結果から新たな課題として現場マネジャーが会計情報と行動の関連性をどのように判断しているのかという点があげられた。この点を次年度以降の追加的フィールド調査によって明らかにしていき、最終的な目標である理論的フレームワーク構築に役立てていく。 しかし、当初予定していたリサーチサイト1社について、東日本大震災の影響もあり調査を継続する環境が十分整わずに断念せざるを得なかった。K社からは極めて有用な情報を収集することができたため、情報の不足分を補うことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は追加的な調査を行い、最終的に理論的フレームワークを構築することを計画している。本フレームワークによって、現場の利益管理における会計情報が果たす役割について仮説を提示する。そのため、調査結果の考察・分析と合わせて、文献のレビューも引き続き実施していく予定である。また、成果を研究会や国内外の学会へ報告することで、他の研究者や実務家からの意見を反映させ、さらに内容を深耕させていく。 なお、新たなリサーチサイトの開拓も継続する。現時点でホテル、小売業(スーパー)などの業種で候補があり、今後、研究への協力を仰いでいく予定である。複数の企業の事例についてデータを収集することで、理論的フレームワークの妥当性を向上することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は研究費の繰越が発生した。これは、リサーチサイトが1社減った点および長崎大学より当研究に別途助成を受けた点が理由としてあげられる。次年度では、引き続きフィールドリサーチを計画しており、また研究会や学会への参加に伴う渡航費が発生することから、旅費の支出が大部分を占める予定である。また、文献レビューも行うため、洋書を中心に書籍代も必要となる。さらに、調査データ収集のためのデータ保存媒体や文房具類といった消耗品についても費用の計上が見込まれる。
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