研究課題/領域番号 |
23730448
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研究機関 | 名古屋商科大学 |
研究代表者 |
青木 康晴 名古屋商科大学, 商学部, 講師 (50553137)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 支配株主 / 最大株主 / 配当政策 / 利益情報の有用性 / 利益の質 / 利益調整 / 裁量的会計発生高 / 保守主義 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本企業のデータを用いて、支配株主の存在が会計数値の特性に与える影響を実証的に検証することである。平成23年度は、最大株主のデータベースを構築し、各企業の最大株主をインサイダー(経営者)とアウトサイダー(経営者以外)の2つに分類したうえで、以下の3つの実証分析を実施した。1.支配株主と利益情報の有用性:分析の結果、最大株主がインサイダーの場合に は、その持株比率が高いほど利益情報の有用性も高いのに対して、アウトサイダ ーの場合には、両者の関係が非線形(逆U字)になっていることが示唆された。2.支配株主と利益の質(利益調整および会計上の保守主義):分析の結果、最大 株主がインサイダーの企業の利益は、アウトサイダーの企業の利益よりも総じて 利益の質が高いことが示唆された。3.支配株主と配当政策:分析の結果、最大株主がインサイダーの企業はアウトサ イダーの企業よりも多くの配当を支払う傾向にあることが示唆された。さらに、 最大株主がインサイダーの場合には、その持株比率が高いほど多くの配当を支払 うのに対して、アウトサイダーの場合には、正反対の関係が存在することが示唆さ れた。 これらの研究から、最大株主がインサイダーかアウトサイダーかによって、会計利益の特性や配当行動が異なることがわかる。この原因としては、わが国の法制度の下では、経営者は(たとえ大株主であっても)会社に対する忠実義務を負っているのに対して、アウトサイダーである支配株主はそうした義務を負っていないことが考えられる。申請者の知る限り、こうした点に注目した実証研究は存在せず、会計やファイナンスの研究領域に対する大きな貢献になると考えられる。さらに、本研究の実証結果は、わが国のコーポレートガバナンス、とりわけ少数株主保護の制度を考える上で重要な示唆を与えるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実証研究に必要な最大株主のデータベース構築に、予想以上に時間がかかってしまった。そのため、American Accounting Association Annual MeetingやEuropean Accounting Association Annual Congressの応募締め切りに間に合わず、交付申請書で掲げていた、平成24年度にこれらの学会で報告するということができなくなった。しかし、それ以外の点では、支配株主と利益情報の有用性、支配株主と利益の質、支配株主と配当政策という3つの研究を実施し、いずれも意義のある検証結果を得ることができた。したがって、学会報告という観点からは遅れてしまったものの、研究自体は順調に進んでおり、平成24年度・25年度で挽回することは十分に可能だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度・25年度は、平成23年度に実施した3つの研究を学会で報告し、論文の公表を目指す。具体的な計画は以下の通りである。1.支配株主と利益情報の有用性:『企業会計研究のダイナミズム』(中央経済社、 2012年5月に刊行予定)に論文掲載が決定している。2.支配株主と利益の質:平成24年度は、2012年8月に一橋大学で開催される日本会 計研究学会で報告を行う。また、2012年11月のAsian Academic Accounting Association Annual Conferenceでも報告したいと考えている。さらに、American Accounting Association Annual MeetingやEuropean Accounting Association Annual Congressに応募し、アクセプトされれば平成25年度に学会報告を実施したい と考えている。最終的には、査読付きの英文ジャーナルに投稿する。3.支配株主と配当政策:平成24年度は、2012年5月に一橋大学で開催される日本フ ァイナンス学会で報告を行う。さらに、Asian Finance Association Annual Meeting に応募し、アクセプトされれば平成25年度に学会報告を実施したいと考えている。 最終的には、査読付きの英文ジャーナルに投稿する。 上記のほか、機会があれば、国内研究機関の開催する研究セミナーやワークショップでも積極的に成果発表を行う予定である。そうした場で得られた研究者からのコメントやアドバイスを反映させることによって、海外学会での発表がアクセプトされる可能性は高まると考えられる。また、これらの研究とは別に、支配株主と役員報酬の関係についても実証分析を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、予算の関係上、平成23年度に購入することが出来なかったデスクトップPCを購入する(約30万円)。さらに、会計学およびコーポレートガバナンス関連書籍(約10万円)、PC関連消耗品(約10万円)、英語論文の校正費用(約10万円)、学会年会費(約5万円)に使用する。残額は、国内外の学会参加費や出張費である。
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