支配株主が存在する企業では、支配株主による機会主義的行動の抑制がコーポレートガバナンス上の大きなテーマとなる。本研究では、そうした機会主義的行動がとられているのかを、(1)利益情報の有用性、(2)会計上の保守主義、(3)配当政策という3つの観点から検証した。 研究(1)では、支配株主の存在は総じて利益情報の有用性を高めるものの、最大株主がアウトサイダーの企業では、その持株比率が40%を超えたあたりから利益情報の有用性の低下を招くことが示唆された。一方、最大株主がインサイダーの企業では、こうした利益情報の有用性の低下は確認されなかった。以上の成果をまとめた論文は2012年度に『企業会計研究のダイナミズム』の1章として公表された。 最大株主企業と被所有企業が両方とも上場している状況に注目した研究(2)では、最大株主持株比率が高い企業ほど、保守的でない会計利益を報告するという証拠が提示された。また、最大株主が役員を派遣している企業、相対的に規模が大きい企業ほど、持株比率と保守主義の間の負の関係が強いことも示唆された。以上の成果をまとめた論文はInternational Journal of Accountingに投稿され、2014年5月時点で査読審査中である。 研究(3)では、最大株主がインサイダーの企業は、最大株主がアウトサイダーの企業に比べて、多額の配当を支払っていることが示唆された。また、前者の企業では最大株主持株比率と配当の関係が逆U字型になっているのに対して、後者の企業では両者の関係がU字型になっていることも示唆された。以上の成果をまとめた論文はInternational Review of Financeに投稿され、2014年5月時点で査読審査中である。 本研究の実証結果は、わが国のコーポレートガバナンス、とりわけ少数株主保護を考える際に、一定の示唆を与えるものと期待される。
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