研究課題/領域番号 |
23730453
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
東 健太郎 立命館大学, 経営学部, 准教授 (20535843)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 環境貢献 / 環境報告書 / ESG / 水 / 削減貢献量 |
研究概要 |
1.わが国の主要業種・企業を網羅したインデックスである日経225社につき、環境報告書を収集し、環境貢献の視点から分析を実施した。企業活動が環境負荷の削減に直接的につながる事例として、エネルギーならびにモビリティが代表例であることを確認した。また、その成果達成の指標として使用される「削減貢献量」の事例をスクラップし、その計算手法についての比較分析を実施した。環境報告書の収集プロセスについては、わが国上場企業1600社余りについて現在も実施中である。2.上記1.の作業を通じ、環境貢献の事例から今後重要になると思われる産業として「水」ビジネスが浮上した。そこで、水道・下水等関係の資料を収集し、環境経営の視点から分析を行った。その結果を、(11th International Symposium on Public Sector Management(2011年10月16日・17日、日本大学)において発表した。3.現在注目されている環境貢献のもう一つの事例として、ブルームバーグ社やトムソン・ロイター社が実施している投資家向けのESG情報提供がある。両社は、環境報告書やサステナビリティ報告書に公開された情報を網羅的に収集したうえで、データベース化し、投資家に提供している。本研究では上記1.で収集した報告書を用いて、両社のデータベース作成過程を実施した。これにより、現在、投資家向けに提供されているESG情報の問題点を明らかにした。この研究を国際基督教大学宮崎修行氏との共同で、Environmental Accounting and LCA in Asia for Greening the Supply Chain(2012年12月3日、神戸大学)において発表した。英語論文としてまとめた原稿は、英国の学術雑誌に投稿し、現在、レビュープロセス中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境報告書の収集プロセスについては、国内上場1600社について、現在も進行中である。また、当初予定していた海外企業の環境報告書収集については、まだ現在も着手できていない状況である。収集のプロセスに限定してみれば、当初の計画は達成されていない。しかし、23年度中の研究中には、環境報告書の収集プロセスにおいて、当初予想していなかった重要な発見があり、研究を新たな方向に大きく展開することができた。第1には、水分野における研究である。水ビジネスにかかわる企業は、必然的に環境保全に積極的でなければならない。飲用水を提供するためには水源を保護せねばならないし、下水処理に携わる企業のビジネスは環境保全そのものである。水ビジネスでは、事業展開と環境保全の両立が至上命題であり、したがって、環境貢献の格好の事例である。23年度の研究においては、本分野において知見を広げ、また、水道・下水をこれまで経営学の視点から扱ってきた歴史のある公共経営の学会において発表することができたことは、重要な成果であったと考えている。 第2には、ESG分野における研究である。これまで日本の環境報告書の発行状況は、世界の中でも先進的であるとの高評価であった。しかし、情報の利用目的が明確でなかったことが一要因となり、優れた開示情報が利用されない状況が存在した。ブルームバーグ社やロイター社が提供するESG情報の大きな部分を日本企業が占めているのは、それだけ日本企業の環境報告が優れていることの証左でもある。環境報告とESG分野の連携は、今後、日本から世界に対して発信できる有望な分野に展開する可能性があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.継続している国内上場企業の環境報告書収集プロセスを2012年8月をめどに完了させる計画である。また、これまでの作業を通じ、環境報告書のほとんどは、PDF形式で公表されていることが分かった。そこで、分析手法として、PDFファイルの検索機能を利用する予定である。国内1600社・過去10年に渡る環境報告書を調査対象とし、環境貢献に関連するワード(たとえば、削減貢献量、競争力、共有価値など)を検索する。どの業種において、どの時期から、どのようなワードが用いられるようになったか、を観察することにより、国内における環境貢献の展開を数値で可視化する。2.ESG情報ベンダーの環境貢献事例を調査する。ブルームバーグ、ロイターならびにMSCIといった大手に加え、TrucostやEIRISといった小規模のベンダーについて、提供する情報ならびにそのインパクトの観点から比較する。とりわけ、提供している情報が実際にどのように投資家に利用されたのか、その結果、社会全体の環境保全に貢献しているのかという観点に焦点をあてる。3.エコツーリズムに関する研究。環境保全と事業活動を両立させることが至上命題となるもう一つの事例としてエコツーリズムがある。国内の屋久島や小笠原諸島をとりあげて、企業経営とのかかわりを明らかにしたうえで、環境保全と事業活動の両立に焦点をあてて、その計数化の事例を調査する。4.ドイツにおけるEモビリティの研究。ドイツにおいては、再生可能エネルギーと電気自動車の普及が環境政策的に統合して展開されている。当該分野にかかわる企業にとっては、事業展開と環境保全が両立仕組みが担保されている。本分野における日独比較を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、環境報告書の収集に人員が必要となると考え、30万円の予算を謝金として計上したが、作業を実施しているうえで、その予算が必要ないことが判明した。そのための金額は、物品費ならびに旅費として使用する計画である。23年度の予算使用により、パソコン、モニターならびに資料といった物品を購入し、基礎的な研究環境はすでに整備されている。そこで、24年度の予算は、以下のものに使用する計画である。「収集した環境報告書の分析に使用するPDF検索のためのソフトウェア」「必要に応じて追加のハードディスク」「インタビュー調査を実施するための国内旅費(ブルームバーグ、ロイターへのインタビュー調査。屋久島エコツーリズムの視察・インタビュー調査など)」「学会報告のための海外旅費(ヨーロッパへの渡航を予定しており、学会報告の後、ドイツでのEモビリティ関連のインタビュー調査の実施」「その他、追加的な資料の購入」
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