本研究課題では、企業会計によって作成される会計情報を用いた企業評価において、包括利益、純利益、その他の包括利益およびその他の包括利益のリサイクリングがどのような役割を果たしているかについて、理論的、実証的に研究を行った。 企業の利害関係者が、包括利益、純利益、その他の包括利益という情報をどのように利用し、意思決定を行っているかということを明らかにすることによって、また、その他の包括利益のリサイクリングの有無によって企業の利害関係者の意思決定にどのような差異が生じるかを明らかにすることによって、包括利益の報告と純利益の報告に関する会計基準研究を行う際の理論的基礎を提供することができる。また、それは、会計情報利用者の意思決定の精度を向上させ、種々の利便の向上につながると言える。 本研究課題では、国内外においても先行研究の少ない、数理モデルを用いた、会計情報と企業評価の関係に関する理論を取り扱っている。この意味で難解な部分や未整理な部分も少なくない。そのような状況において、まずは、包括利益、純利益、その他の包括利益およびその他の包括利益のリサイクリングに関する会計処理の手続きとその本質を研究した。また、企業価値評価の手法とその本質を研究した。これらの2つを有機的に結び付けることが次の作業であり、会計計算構造を表す数式系と企業価値評価モデルの数式系を結び付けることでいくつかの数理モデルを構築した。包括利益、純利益、その他の包括利益の数値をインプット・データとする企業評価モデルの構築である。 この企業評価モデルが企業の利害関係者の意思決定に適合するものであるのかどうかを検討するための考察も必要となるが、そのために、包括利益、純利益、その他の包括利益と企業価値の関係を分析するために数理モデルの構築も行った。
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