研究課題/領域番号 |
23730457
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
坂口 順也 関西大学, 会計研究科, 准教授 (10364689)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 組織間関係 / TCO / 取引関連要因 / 利益 / 信頼 |
研究概要 |
平成23年度では、とくに購買局面の会計情報であるTCO(Total Cost of Ownership)情報に関するこれまでの豊富な議論を整理することに焦点を当てていた。そのため、組織間管理会計の文献だけでなく、コスト・マネジメント、ロジスティクス・マネジメント、サプライチェーン・マネジメントなど隣接領域の文献を網羅的にレビューすることにより、TCO情報が注目される経緯やその構造的特徴について整理し検討してきた。具体的には、(1)TCO情報がどのように登場し、管理会計の実務の一つとして欧米で認識されるようになったのか、(2)TCO情報が対象とするコスト項目として、一般的にどのようなものが見受けられるのか、(3)購買関連の活動を非財務情報としてでなくコスト情報として把握することを通じて、どのような貢献がTCO情報から期待できるのか、といった点についておもに検討した。このような取り組みに対する研究実績として、本年度では、国内学会などでの研究報告や研究論文の発表があげられる。 例えば、研究報告では、近年の組織間管理会計の研究動向を整理するとともに、これを踏まえて、組織間における会計情報の役割を検討することが重要であること(組織間における協働の促進や合理的な意思決定への貢献など)、そのためのテーマとしてTCO情報があげられること(TCO情報を通じた調達意思決定の改善や組織間コスト・マネジメントにおけるコスト低減機会の明示など)、および、会計情報の役割を検討することで過去において議論された日本的管理会計に研究面での貢献をもたらしうること(原価企画での目標原価の設定や利用に関する議論への貢献など)について報告した。また、研究論文では、組織間における情報収集の役割、TCO情報に関する議論の多様性や共通する事項、および、会計情報の視点から見た組織間管理会計の課題などについて指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は研究計画の初年度であることから、当初から購買局面の会計情報であるTCO情報に関するこれまでの豊富な議論を整理することに焦点を置いていた。こうした当初からの目的は、おおむね順調に実施できたと考えられる。その理由は、(1)TCO情報や組織間管理会計に関する研究報告や研究論文を中間的な研究実績として発表することができたこと、および、(2)これらの研究実績が、組織間管理会計の文献だけでなく、コスト・マネジメント、ロジスティクス・マネジメント、サプライチェーン・マネジメントなど関連領域の文献を広範に網羅し包括的なものであることに求めることができる。また、これらの研究実績の中には、過去において議論された日本的管理会計(とりわけ原価企画における目標原価の設定と利用の議論)との関連について指摘した部分が見受けられる。このことは、欧米において新たに注目されるTCO情報に関する研究を単純に紹介するという範囲を超えて、日本で蓄積された知見を踏まえて、このテーマについて今後どのように研究を進めれば良いかを独自に示すものであるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、平成23年度で実施し達成したTCO情報に関する広範な議論の整理と検討を基礎として、本研究のもう一つの課題、すなわち、会計情報が組織間(例えばバイヤー・サプライヤー双方)の利益獲得や信頼形成に与える影響を実証的に解明することに着手する予定である。最近の欧米では、会計情報の役割を実験室実験の手法を用いて実証的に解明した研究が見受けられる。しかし、こうした研究は始まったばかりであり、これまでの組織間管理会計の研究成果が十分に反映されていないことから、(1)不確実性などの取引関連要因が組織間での会計情報と利益獲得との関連性にどのような影響を与えるのか、および、(2)会計情報が組織間の利益獲得だけでなく信頼形成にどのような影響を与えるのか、などの重要課題が未だ明らかにされていない。そこで次年度以降は、本年度の理論的検討を基礎として、取引関連要因や組織間関係の実証的研究に関する文献調査を継続し、実験室実験やこれに続くフォロー・アップのための質問票調査を実施し、もって、組織間における利益獲得や信頼形成、会計情報、取引関係要因などの関連性ついて実証的に明らかにしていきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度にあたる平成24年度では、会計情報が組織間の利益獲得や信頼形成に与える影響を実証的に解明するために、取引関連要因や組織間関係の実証的研究に関する追加的な調査を実施し、実験室実験やフォロー・アップのための質問票調査を準備することを計画している。また、組織間管理会計の研究は、欧米において比較的進展していることから、本研究での目標達成をより確実にするために、経験の豊富な海外の研究者と継続的にコンタクトをとることを予定している。そのため、平成24年度の計画を遂行するに当たり、追加的な資料収集、意見交換、研究報告のための国内旅費や外国旅費、データの整理や外国語論文校閲のための謝金など、設備備品費、消耗品費、国内旅費、外国旅費、謝金が発生すると予想される。また、実験室実験の準備や実施に伴う謝金、質問票調査の準備のための機材や消耗品の購入費なども同様に発生すると予想される。なお、本年度に予定していた海外の研究者とのミーティングの一つがスケジュール調整の都合で次年度に移行せざることになったため、これにかかわる次年度繰越金(235,750円)を外国旅費などに利用することを計画している。
|