研究実績の概要 |
本年度は,これまで実施してきた文献研究,実験室実験などの研究成果を踏まえた上で,会計知識が果たす役割についての外的妥当性の検証を主たる研究内容として調査を進めてきた。重要な研究成果は次の3点である。 1)会計知識は金銭的報酬などの経済的帰結と有意に関係すること。これは,1,034名の企業に勤務する多様な実務家を対象とした調査を行い,職種・業種・年齢といった要因を取り除いた上でなお,示されたものである。また,この会計知識の効果は,経営学などの他の知識とは弁別可能な影響であることも確認された。 2)会計知識は意思決定におけるバイアスと関係すること。これは,実験室実験により,会計知識の量が多い被験者ほど会計数値の順序効果を強く示したことから確認された。よって,会計知識は常に意思決定を洗練させるわけではなく,場合によっては逆機能的な振る舞いの原因となることを示した。 3)会計知識の獲得において,個人の性格などの要因は強い影響をあたえることはないこと。これは会計知識の獲得初期の学部学生を対象としたアンケート調査および試験による知識測定の結果から確認された。よって,会計知識は,特定の個人属性のもとでしか獲得できない知識ではなく,むしろ幅広く受け入れられる可能性があることを示した。 このような研究成果は,会計知識の重要度を確認した,という点に集約されるだろう。今後は,実際の企業組織レベルに研究の焦点を移動して調査を継続することで,より実践的なインプリケーションに満ちた研究が実施できると考えられる。
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