研究課題/領域番号 |
23730460
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
杉田 武志 広島経済大学, 経済学部, 准教授 (80509117)
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キーワード | 会計史 / 財務会計 / 東インド会社 / 会計報告 / Stock / 資本評価 / 貸借対照表 / イギリス |
研究概要 |
本年度は、研究計画の2年目に当たり、昨年度より実施してきた研究の基礎的作業(史料収集、先行研究のレビュー)を行うとともに、資料の入手、大英図書館での資料やリファレンスの調査、及び入手した資料の考察も進めた。 基礎的作業としては、昨年度に引き続き、会計報告や財務報告に関する海外の論文、日本の文献を取り上げて、論点整理などを行うことで、研究の方向性をクリアーにすることができた。さらに、実際に確認の必要がある資料もあったことから、夏季休暇を利用して渡英し現地の大英図書館に赴いた。現地ではおよそ1週間ほど滞在して資料の複写やリファレンスの確認を行った。 入手した資料に基づいて考察も進めた。17世紀後半の会社資本評価(1664、1671、1678、1685年)を対象として、その概要、作成方法などについて整理を行った。東インド会社では、1664年の組織的な複式簿記が導入されて以降、4回の資本評価が実施されており、そのうち元帳の締切とともに1671年に第2回目と1678年に第3回目の資本評価が実施されている。それゆえ、第2回、第3回目などは複式簿記の記録との関係が問われるところであった。そこで、本年度では資本評価の記載内容を概観しながら資本評価と元帳勘定記録との関係も検討してきた。 その結果、第3回目の資本評価の実施に際しては、元帳の締切に伴い資本評価が実施されることが議事録からも読み取ることができるように、その関係が明確ではあったものの、部分的には誘導されていることがうかがえるものの、必ずしもすべての項目が帳簿記録から誘導されたものではなかったことが明らかとなった。 もちろん、これらの研究成果を日本を代表する会計史の専門家が集う神戸大学会計史研究会において研究報告を行い、多数の研究者から得た知見をもとに、報告の内容をブラッシュアップさせることもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の2年度目にあたる当該年度では、昨年度に引き続き予定していた、会計報告の歴史などに関する論文、書籍などの先行研究のレビュー、研究計画に関係する東インド会社の会計報告等に関連する資料の入手、および入手した資料の考察が主な課題となっていた。 この計画に従い、海外と国内の先行研究のレビューならびに資料の考察を進めることができた。特に、17世紀から18世紀を中心とした東インド会社の会計報告資料に関しては、その多くを大英図書館へと複写依頼を出し、CD-Rへと複写してもらい、収集することができたと考えている。 また、資料入手ができないものや、実際に確認の必要がある資料もあったことから、夏季休暇を利用して渡英し現地の大英図書館に赴いた。現地ではおよそ1週間ほど滞在した。大英図書館では資料の閲覧が可能なリーディングルームを利用して資料の調査を行った。これにより、日本にいては確認できなかった資料の検討や不明であった資料のリファレンスもある程度明確にすることができた。これも当初の予定通り実施することができた。 一連の資料収集、資料の調査などにより、予定していた17世紀、18世紀の会計報告に関連する資料の検討を始め、それらの特徴として形式、作成方法を考察した。その研究成果の一部を会計史の専門家が集まる神戸大学会計史研究会で報告した。そこでは、多くの研究者からの知見を得ることができた。次年度はこれらの成果に加えて、資料の考察を進めることで、研究計画の目的を達成することができると思われる。 以上のように、先行研究のレビュー、資料の入手、現地での資料調査、資料の考察、および成果の発信という観点から、現在のところ当初の研究計画に照らしあわせると、予定に沿って進められていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度においては、入手した資料のうち、主に17世紀後半の会社資本評価(1664、1671、1678、1685年)などを中心として考察してきた。したがって、次年度では17世紀以降を対象として、18世紀に入り、比較的、定期的に作成されている会計報告(Stock Compulation)などを取り上げて考察を行う。 主に資料の考察としては、今年度と同じように、18世紀の会計報告を中心として、各報告書のひな形、作成方法の整理を中心として進められる。特に17世紀中葉ころからは1年ごとに作成されていることから、ここの傾向を考察することが、研究の目的を達成するうえで重要な作業となるだろう。 これに加えて、会計報告が定期的に実施されるようになったプロセスを検討していく。そのために、同社の意思決定機関であった理事会の議事録を用いて、こうした会計の仕組みづくりに影響を与えた出来事や関係者の発言にも焦点を当てていく。会社の意思決定に影響を与えた要因を分析することで、会計報告が継続的にかつ定期的に実施されるようになった背景を探ることができるからである。 あわせて、未だに入手できていなかった関連資料については、次年度において大英図書館へと複写の注文を出す予定である。これまでとと同様に、資料の「あたり」はついている。 なお、本研究のように、17世紀後半から18世紀の東インド会社における会計報告を取り上げた研究はほとんど見当たらないことから、今後はこれまでの研究成果をまとめて、今年度と同様に、まずは神戸大学会計史研究会において成果を報告したのち、研究成果をブラッシュアップするつもりである。それから論文として専門雑誌に投稿する予定、ならびに学会で研究報告を行う予定である。
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