研究課題/領域番号 |
23730462
|
研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
澤登 千恵 大阪産業大学, 経営学部, 准教授 (30352090)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 会計史 |
研究概要 |
2009年より,財務報告制度の源流である19世紀イギリス鉄道会計の財務報告実務に焦点をあて,会計変化とその背景についてテキストマイニングを活用した客観的分析に取り組んできた。まず,その基盤を築いたLondon and Birmingham鉄道会社(L&BR)の分析を行い,2010年の学会報告で「不鮮明な史料のテキスト化の不完全性が分析結果の有効性を保証しないのでは?」「テキストマイニングの分析結果からのみで当該会計変化の要因を資金調達方法の変化(資金調達不確実性の高まり)の影響と特定出来ないのでは?」という指摘を受けていた。 そこで平成23年度はまず,分析済みのL&BRの全報告書について手入力で完全なテキスト化を行って同様の分析を行い,先の分析結果の妥当性を確認した。 次に,19世紀前半から20世紀初頭までのイギリスを代表する他の鉄道会社についてもL&BRと同様の分析を行い,他の会社でも同様の会計変化に対して資金調達不確実性の高まりの影響があったことを確認した。さらに,両者の関係を統計的に分析することに挑戦した。19世紀後半までの成果は学会で報告した(2011年11月,28th Annual EAMSA Conference(in Sweden))。 また,今回のアプローチとその成果について学会で報告した(2011年9月,日本会計研究学会第70回大会。10月,日本情報経営学会関西支部第217回例会)。 さらに,2010年に報告を行った学会から,歴史的研究に新しいアプローチを適用し,資金調達方法の変化という新しい視角で会計変化を捉えたことを評価され原稿投稿の提案を受けた(Journal of Accounting & Organizational Change(査読付き))。報告原稿に修正を重ね,提出した(2011年9月,12月修正,2012年5月提出)。現在,結果を待ち。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)L&BRとGrand Junction鉄道会社については全期間,London and North Western鉄道会社(LNWR)については20世紀初頭(1911年鉄道会社法制定)まで, London, Brighten, and South Coast鉄道会社については19世紀後半(1868年鉄道規制法制定)まで,Great Western鉄道会社(GWR)については19世紀中頃から19世紀後半までの期間について,テキストマイニングによる分析を完了した。(2)分析結果からは,各社が直面してきた多様な会計問題とその推移を推測することが出来た。具体的には,減価償却の問題,擬制資本の問題,営業費用の問題,監査の独立性の問題,資本勘定閉鎖の問題,在庫削減の問題,資本的支出の範囲の問題,資金調達の問題,現金管理の問題,社債の株式への転換の問題等である。そして,歴史的研究(アプローチ)により,それら会計問題の詳細とそれに対する取組み(会計変化)を調査した。さらに,その背後にあった資金調達不確実性の高まりの影響やその他の要因の影響を検討した。(3)会計変化と資金調達不確実性の高まりとの関係については,統計的分析に挑戦した。(4)さらに,上記の関係にはタイムラグが存在することから,その関係を正確に測定するために,ダイナミックワーピングによる統計的分析に挑戦することになった(高松大学准教授 浮穴学慈氏との共同研究)。 研究経過は概ね予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)2012年度は,引き続き,20世紀初頭までの期間についてのテキストマイニングによる分析結果から得られた会計問題を参考にして,歴史的研究によりその詳細とそれに対する取組み(会計変化),その背景を検討する。特に,資金調達不確実性の高まり以外の要因の特定に力を入れる。さらに,双方の関係について統計的に分析する。可能であれば,ダイナミックワーピングによる統計的分析にも挑戦する。(2)次に,20世紀中頃(合併あるいは国有化)までの期間について,テキストマイニングを活用して分析を行う。得られた分析結果から各社が直面してきた会計問題の推移を推測し,歴史的研究によりその詳細とそれに対する取組み(会計変化),その背景を検討する。(3)さらに,鉄道業全体において,19世紀前半から20世紀中頃(国有化)までの期間について,テキストマイニングによる分析を行い,その分析結果から鉄道業が直面してきた会計問題の流れを観察し,現代の財務報告実務の生成に対する貢献を検討する。(4)一方で,19世紀を代表する鉄道会社であり,その会計実務がアメリカ鉄道会計に影響を与えた可能性が高いにもかかわらず,先行研究ではあまり注目されてこなかったGWRの会計実務 の詳細について,歴史的研究により,設立当初の記帳組織の研究を進める。テキストマイニングによる分析結果を参考にし,決算書様式のアメリカ鉄道会社への伝播についても検討する(北海道大学准教授 春日部光紀氏との共同研究)。(5)並行して,研究成果を論文としてまとめ雑誌に投稿する。可能ならば,得られた新しい研究課題について,学会で提示し,関心ある研究者との共同研究を図り,新しい分析視角からの検討を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
(1)未入手であるLNWRとLB&SCRの1912年から1922年までの史料(年次報告書),GWRの設立当初および20世紀初頭以降の史料(仕訳帳,総勘定元帳,現金勘定,年次報告書,委員会報告書等)のコピー依頼を行う必要がある。(2)海外への研究成果発信のため,英文原稿の校正等の費用が必要になる。国内での研究成果発信のための大会参加費および旅費が必要になる。(3)遠方の研究者と共同研究を予定しており,研究はwebシステムを活用して行うが,当初は先方の研究室を訪問し,設定や方法を説明する必要があり,旅費が必要になる。
|