本研究では,イギリスのコミュニティケア改革以後の在宅介護home care,日本の介護保険制度以後の訪問介護労働を対象に、準市場型システムが在宅介護労働に与える影響について明らかにした.日英とも,準市場の形成によって、民営化による生産効率性の追求と利用者の自己決定・選択をとおした競争とサービスの質の担保を目指してきた.しかしこのシステムは、賃金水準の低下、短時間・細切れ労働化による労働強化、利用者との相互行為をとおした感情的報酬の欠如、介護労働者の裁量の縮小というかたちで、介護労働力の再生産を困難にしてきた。 日本では介護報酬の改正によって低価格化と短時間化がすすめられ,イギリスでは,地方自治体がより安価で質の高い民間サービスの購入を求め,出来高制のスポット契約のもとで事業者は弱い立場に置かれている.両国とも,「生産効率性」がサービスの短時間化と低価格化によって達成されており,結果として最低賃金をわずかに上回る程度の民間の在宅介護労働をうみだしたといえる. また利用者の自宅で生活を支える在宅介護労働は,利用者との良好な関係性が円滑な業務遂行を支えるための条件となる.本研究では,関係性を基礎にした業務遂行によって利用者ニーズを充足する労働を「質のよいケア労働」ととらえる.イギリスでも日本でも,重度者への「重点化」政策のなかで,短時間のスポット的ケアが増加し,関係性の構築をベースにしたケア提供を不可能にしている.準市場においては,政府がサービス資源配分のコントロールをおこなうが,こうしたコントロールが訪問介護労働においては賃金等の待遇だけでなく、利用者との相互行為における関係性や規範などにも影響を与える.サービスの質だけでなく「質のよいケア労働」の保証を準市場の成功条件として位置づける必要がある。
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