研究課題/領域番号 |
23730468
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
原口 弥生 茨城大学, 人文学部, 准教授 (20375356)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 災害社会学 / 環境的公正 / 東日本大震災 / JCO臨界事故 / 環境リスク / アクションリサーチ / 避難者支援 / 市民調査 |
研究概要 |
本研究は,近年,社会学において進展がみられる災害研究分野において,自然災害と原子力災害との比較検討を行い,それぞれの災害後の地域再生過程の特徴を明らかにしようとするものである。とくに災害後の地域再生過程において被災者/被害者がどのように社会的に承認/認識されたのか,その認識が災害後の地域再生の方向性とどのような関係にあるのか,について実証的研究をとおして明らかにする。次に,これらの点が自然災害と原子力災害という災害の社会的性格とどのように関係しているかについて比較分析する。個別事例の分析にとどまらず,災害の社会的性格の違いに由来する社会的特徴を抽出することで,災害研究上の大きな進展が期待できる。 本研究の申請後に東日本大震災と福島第一原発事故が発生したため,大幅な研究計画の変更を行った。研究方法としては,大規模災害直後ということもあり,被災地において実践活動や支援活動を行いながら被災者・避難者や当事者と共同作業によって進めるアクションリサーチの手法を採用した。具体的な研究活動としては,1)「『個人被ばく市民調査』支援の輪プロジェクト」(事務局)を立ち上げ,茨城県・福島県において,各地域の市民グループに協力頂きながら,個人の外部被ばくの実態把握を行いつつ,市民グループとの連携・支援を図りながら,災害後に注目される市民活動やリスク意識について定性的調査を継続している。2)次に,福島避難者支援活動「福島乳幼児・妊産婦ニーズ対応プロジェクト」(事務局)の活動をとおして,福島から茨城への避難者(とくに子ども世帯・妊産婦世帯)の実態把握と政策的課題の整理を行った。社会的発信としては「子どもと放射能汚染」をテーマとする研究例会(環境社会学会主催)の企画・司会を行った。被災直後ということもあり,刻々と変化する被災状況や被災者・避難者が置かれた実態把握に努めた1年であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災直後に迎えた初年度は,大震災の状況も踏まえて本研究の目的を達成するための研究計画の変更を行った。当初,被災の真っただ中にある被災者・避難者への聞き取り調査については躊躇も感じたこともあり,他大学の研究者・市民グループと連携して福島避難者支援活動に取り組んだ。茨城県も被災地域であり,行政レベルの避難者支援活動が手薄ななか,教育・研究機関である大学が自治体や専門機関と協力・連携し,学生とともに避難者支援活動に取り組むことは有意義であった。このように,東日本大震災に関係する実践活動・支援活動を学内外の研究者や市民グループと連携して行ってきたため,原発事故の被災者や放射能汚染問題に取り組む市民などとのラポール形成がある程度進んだ。長期に及ぶと思われる避難者支援や放射能汚染問題への社会活動に関する研究土台形成という点では,重要な成果であった。実際に,茨城県内への福島避難者の支援活動の展開や,環境リスクをめぐる市民調査の実践という点では,当初の予定を大きく上回る成果を上げた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降も,これまで築いたネットワークを生かし,被災者支援や当事者との実践活動の展開を継続しつつ,福島県からの避難者・被災者ならびに茨城県在住者で放射能問題に取り組む市民グループや各自治体への聞き取り調査をすすめていく予定である。本年度の支援活動としては,避難者を支援する市民グループとの連携強化や避難者・被災者による自助支援活動(ピア・サポート活動)の後方支援を目指している。また『「個人被ばく市民調査」支援の輪プロジェクト』においては,茨城県,福島県だけではなく宮城県や栃木県における調査の拡大を予定している。以前から継続してきた米カトリーナ災害研究についても再開したいと考えている。海外の先進国における災害事例として重要な位置付けをもちつつあり,1週間程度の米災害調査の実施を予定している。調査は途上であるが,これまでの成果を整理して,学会発表をすることでひろく研究者にそれを提示し批判やコメントを受け,より論点を明確化したものを,「研究ノート」として学会誌への投稿を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
主な経費としては,災害関連の図書資料費(和書・洋書をふくむ)として280千円,パソコン購入費用として80千円(以上,備品費),約1週間のアメリカ調査の実施,ならびに学会・研究会参加費として310千円(旅費),資料整理のための謝金として160千円(人件費・謝金)などを計上している。消耗品としてはコピー機のトナー代など30千円(消耗品費)の支出を計画している。
|