研究課題/領域番号 |
23730468
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
原口 弥生 茨城大学, 人文学部, 准教授 (20375356)
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キーワード | 災害社会学 / 環境的公正 / 東日本大震災 / アメリカ / 地域再生 / 避難者支援 |
研究概要 |
本研究は,近年,社会学において進展がみられる災害研究分野において,自然災害と原子力災害との比較検討を行い,それぞれの災害後の地域再生過程の特徴を明らかにしようとするものである。 本研究の申請後に東日本大震災と福島第一原発事故が発生したため,大幅な研究計画の変更を行った。研究方法としては,大規模災害直後ということもあり,被災地において実践活動や支援活動を行いながら被災者・避難者や当事者と共同作業によって進めるアクションリサーチの手法を採用している。具体的な研究実績概要は、以下のとおりである。 ①自然災害研究のなかで進展した「災害回復力」(レジリエンス)概念について、自然災害のカトリーナ災害でも大規模な石油流出事故が発生ならびに原子力災害の現実を受けて再定義の必要性があることを指摘した論文を『歴史学研究』上で発表した。この点は、複合災害を念頭に置いて防災を検討するのが2011年3月以前より潮流となっており、重要な視点であると考える。②茨城県、県内市町村の協力を得て、茨城県避難者を対象としたアンケート調査を実施した。調査結果について環境社会学会大会、避難者支援民団体主催のシンポジウム等で報告を行い、当事者ならびに社会への還元を行った。③「茨城大学有志の会」メンバーと執筆した論文としては、子供を放射能汚染から守るための政策提言として執筆した『科学』論文、また過去の公害の経験から、今回の東日本大震災ならびに福島原発事故に直面する現世代への教訓についてまとめた『月刊 高校教育』への依頼論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
災害が本研究のテーマであるが、2010年秋に企画したものであったため、東日本大震災・福島第一原発事故を受けて、本研究の目的を達成するための研究計画の変更を行った。初年度は、茨城県内で生活される広域避難者支援(とくに子育て世代)や、茨城県で放射能汚染問題に取り組む市民グループとの連携を行ったが、本年度は、茨城県、県内市町村のご協力をいただき避難者アンケートを実施することができた。回収率も3割を超え、避難者支援団体にも調査結果を活動に活用していただき、また調査結果報告については、ローカル紙全てで報道していただいた。調査結果の社会還元にも力を入れた成果であると考える。 また、学内の同僚とともに県内の放射能汚染についても取り組み、「原発事故子ども被災者支援法」セミナーの開催や、本法をめぐる実践的活動も展開した。 全体としては、学術的活動というよりは震災支援の実践的活動に軸足を置いているが、歴史学会での学会報告をはじめ、支援活動での経験が学術的な分析・考察に大いに活かされる結果となった。研究は順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も,これまで築いたネットワークを生かし,被災者支援や当事者との実践活動の展開を継続しつつ,福島県からの避難者・被災者ならびに茨城県在住者で放射能問題に取り組む市民グループや各自治体への聞き取り調査をすすめていく予定である。本年度の支援活動としては,避難者を支援する市民グループとの連携強化や避難者・被災者による自助支援活動(ピア・サポート活動)の後方支援を目指している。また『「個人被ばく市民調査」支援の輪プロジェクト』においては,茨城県,福島県だけではなく宮城県や栃木県における調査の拡大できたので、これのまとめの作業を予定している。 本年度は、国内での研究活動に予想以上の時間を要し、昨年予定していた米カトリーナ災害に関する現地調査ができなかったため、次年度への研究費繰越が発生した。来年度は、米国調査を実現し、国内事例との比較に本格的に着手したいと考えている。 とくに本研究が終了する2014年3月は、東日本大震災発生から3年が経過する時期であり、一つの区切りと考える。そのタイミングに合わせて、「報告書」として研究成果をまとめる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な経費としては,災害関連の図書資料費(和書・洋書をふくむ)として300千円,アメリカ調査を春と夏に2回(1週間程度)実施するために700千円(海外旅費)、ならびに学会・研究会参加費として300千円(国内旅費),資料整理のための謝金として250千円(人件費・謝金)などを計上している。消耗品としてはコピー機のトナー代など30千円(消耗品費)の支出を計画している。
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