研究課題/領域番号 |
23730469
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
五十嵐 泰正 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80451673)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際移動 / コミュニティ / 都市 |
研究概要 |
初年度にあたる今年度は、社会学、地理学、文化研究等の領域における移動と定着の現在的意味に関する理論的検討を重視しながら、随時実証的な研究も行った。実証研究としては、東京都台東区上野地区でのニューカマー外国人を含めたコミュニティ形成と、上野の各住民・商店主層における「地域」意識の調査に特に力点を置いた。その中で、飲食店を中心とした多文化的な繁華街である上野2丁目仲町通りにおける防犯活動に関して、聞き取り調査の結果をもとに『社会学評論』掲載論文として発表した。また、来年度までの2年間、アメ横商店街の活性化についての政策提言型の調査プロジェクトをアメ横表通り商店会より委託されており、鮮魚店やエスニック食材店など、アメ横の代表的な各業種の店主に精力的な聞き取り調査を行っている途上である。また、東日本大震災を経た本年度は、移動と定着の今日的な意味を考える上で、特別な一年であった。震災後の外国人の帰国問題について、統計資料調査や富山県・茨城県での聞き取り調査を『移民・ディアスポラ研究』所収論文としてまとめた一方で、震災を機により一層の日本企業のアウトソーシングが進んだ中国・大連市で、現地採用される日本人の若者たちや人材派遣業者の調査を行った。 さらに、調査対象地の一つであった千葉県柏市では、同市が放射能のホットスポットとなるに至って深刻な市産農産物への打撃が生じた。研究計画策定当初は予想だにしなかった事態であるが、この状況の中で、市民(消費者)と農業者で協働的に問題解決を図る社会運動に深く関わったことで、「土地に縛り付けられた」農業者と「移動者」である郊外住民の意識の差異への理解を深めたことは、現代における移動と定着の問題を考える上で、きわめて大きな意義を持った。柏での参与観察調査においては、幅広い社会的フィードバックを特に重視し、『αシノドス』のインタビュー記事への対応などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災の影響を強く受けた平成23年度は、調査対象地の農業問題など計画当初は予想しなかった領域に関わり、調査事例の一部をフレキシブルに変更したが、それが結果として、移動と定着の今日的な意味の考察という本研究課題の本旨を深めていくうえで、かえって有意義であったと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度のアメ横をはじめとした上野地区での調査および柏市での調査を中心に、それらの具体的な地域を起点とした移動と定着をめぐる理論的な考察は、本年度も継続して行ってゆく。本年度の研究の中で、国際的な流動性を受け止める様々な住民層・商店主層の反応が複雑に錯綜していることが明らかになったので、そうした視点に特に留意しながら研究を進める。また、上野地区アメ横商店街の顧客層に対して、広範なネット委託調査形式で、消費行動の中から都市の流動性と継続性を浮かび上がらせる質問紙調査を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上野地区アメ横商店街の質問紙調査に、20万円程度の予算を充てる予定である。また、中国・大連市において延べ7~10日間程度の調査を行い、現地の人材派遣会社等の協力のもと、現地採用で働く日本人の若者たちや、彼らが働く日系・中国系企業での聞き取り調査を本格化させたい。このためには、旅費や関連資料の購入代金として20万円程度を充てる予定である。次年度使用額のうち、134,521円は平成24年3月21日~25日の中国・大連市への海外出張で、旅費として支出済みであり、実質的な「次年度使用額」は15,288円であるが、これもこの調査旅費に充当する。残った予算は、研究資料や消耗品の購入、上野地区以外の国内調査旅費等として支出する。
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