現代的な移動の諸相を実証的・理論的に検討することを目的とした本研究では、当初の研究計画に則って、台東区上野地区(特に流動性の激しいアメ横商店街)におけるコミュニティ形成や、中国・大連市における現地採用日本人労働者の移動志向などの調査を行ったほかに、交付直前に発生した東日本大震災によって、調査事例地のひとつである千葉県柏市が放射能の「ホットスポット」になるというまったく想定外の事態を前に、当初の計画を大きく変えた対応を行った。柏市を含め、2011年以降の放射能問題による農産物の産地忌避やいわゆる「風評被害」は、消費者と生産者の移動性(モビリティ)の違いに基づく非対称性に起因していた。研究代表者は、このモビリティの違いを越えて、同じ地域を構成する一員であるという意識の醸成を起点とした、消費者と生産者の協働による問題解決を図った市民運動「安全・安心の柏産柏消」円卓会議に実践的に関与し、ある種のアクションリサーチを進めていくことで、現代社会における移動/定着の意味とコミュニティ形成に関して、またとない知見を得ることができた。 最終年度に当たる平成25年度においては、上記の柏市における実践的な研究の成果報告やアウトリーチ活動に重点を置いた研究活動を行った。中でも特に、農学、リスク研究、農業経済などの幅広い異分野の専門家との研究交流や、福島県いわき市や福島市、岩手県一関市などの農業者、漁業者、水産加工業者などとの意見交換は、非常に実り多いものだった。また、農水産物の国際的な流通の実相と、日本産の食品に対する意識を調査するため、ベトナム・ニャチャン市での現地調査を行った。ほかに、外国人高度人材をめぐる研究成果の寄稿なども行った。
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