研究課題/領域番号 |
23730470
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 保行 東京大学, 経済学研究科(研究院), 特任助教 (50454088)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 在中国日系ものづくり企業 / 中国ものづくり環境の変化 / 中国農民工 |
研究概要 |
平成23年度は、主に、在中国ものづくり企業の日本人駐在員(工場長または総経理)への基礎的な聞き取り調査のフォローアップをおこない、その内容を論考にして発表した。具体的な知見は、中国ものづくり環境の変化への対応として、次の4つが明らかになった。(1)多能工・熟練工の確保と育成、(2)高付加価値創出のための機械化促進、(3)労務費削減のための機械化、(4)半機械化・オペレーションの改善である。そして、これら変化への対応を整理する軸として、二つの軸が浮かび上がってきた。一つめは、高付加価値を重視するのか、労務費の抑制をおこなっていこうとするのかである。二つめは、変化対応に要する一時的な投資額の大小である(詳細に関しては、岸保行・内村幸司(2011)「転換期を迎えた中国・華南地域におけるものづくり」、『国際ビジネス研究』第3巻第2号、国際ビジネス研究学会)。 併せて、既に実施された在日系企業で働く中国人ワーカーの外資系企業選好に関する質問票調査の二次分析をおこない、その基礎的な知見を得ている。具体的な知見としては、近年の中国企業の台頭にともない、中国企業で働きたいと回答するワーカーの割合が、2001年時の調査と比較すると2010年の調査では飛躍的に高くなっており自国の企業への強い選択意欲が見られた(詳細に関しては、岸保行「中国における多能工・熟練工の育成は可能か?」、『明日の東洋学』No.26、東京大学東洋文化研究所附属東洋学研究情報センター)。 また、平成24年度に実施する調査のインフラを固めるために、調査票の素案の作成と調査先の選定作業も開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、24年度に実施する調査のための基礎的な情報収集をおこなった。具体的には、日本企業サイドが、近年の中国ものづくり環境の変化にどのように対応し、中国人ワーカーをどのように見ているかに関する知見を得ることができた。併せて、在中国日系ものづくり企業で働く中国人ワーカーの外資系企業選択に関する二次分析をおこない、中国人ワーカーの外資系企業選択の傾向把握をおこなった。いずれの作業も平成24年度の調査の基礎的なデータとなり、この基礎的なデータを踏まえて、平成24年度の調査が実施されることになる。その意味では、平成24年度の調査の準備段階として、日本企業サイドへの調査と中国人ワーカーの職業選択に関する基礎的な把握が行なえたことは、大変に意義深い。平成24年度の調査に向けて、非常に意義のある調査準備をおこなうことができたと言える。 併せて、平成24年度におこなう調査票の素案の作成もおこない、対象企業の選定も開始している。 このように、当初の研究目的に照らし合わせて考えてみると、平成23年度は、概ね当初の計画通り、平成24年度の調査に向けた準備を周到におこなうことが出来たと言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、華南地域の日系ものづくり工場で働く中国人ワーカーに対する質問票調査・聞き取り調査を実施する。併せて、可能であれば準拠集団として大連に進出した日系ものづくり工場で働く中国人ワーカーに対する調査も実施する。聞き取り調査に関しては、質問票調査のインフォーマントとなった者をそれぞれ1社に対して2~3名ずつ選び出し、合計10名前後のワーカーから聞き取り調査を実施する予定である。 中国での聞き取り調査に関しては、当然、中国語でおこなうことが必要となる。そのため、本研究では、中国での調査に関して、海外共同研究協力者の支援を得る予定である。具体的には、香港大学文学部のDixon H.W. Wong(王向華)准教授の支援を得る。Wong准教授は、経営人類学の第一人者で、香港日系企業で2年間のフィールドワークをおこなっており、アジアに進出した日本企業の人材管理・人材育成に詳しい。加えて、Wong准教授は、中国語・広東語・英語・日本語を話すことができ、華南地域での調査では、広東語での聞き取り調査が可能となる。併せて、研究代表者が所属する新潟大学大学院の中国人留学生(張錦姫氏)にRAとして調査に参画してもらい、協力を得る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、調査の年となる。そのため、主たる研究経費は、調査のための旅費、調査票の印刷等にかかる経費、調査を支援してもらう方への人件費(謝金)となる。また、調査を実施するための機材(ICレコーダー、デジタルカメラ等)の購入もおこなう予定である。 平成24年度は、調査のための情報収集、実際の調査を実施するために2~3回の国内外の出張を予定している。とりわけ中国での調査に関しては、日本人単独でおこなうのは非常に困難であるため、海外共同研究協力者や新潟大学大学院中国人留学生(RA)を同伴して調査をおこなうことになる。
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