研究課題/領域番号 |
23730473
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
西野 史子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (40386652)
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キーワード | 若年労働者 / 有期契約雇用 / キャリアラダー / 技能形成 / IT産業 |
研究概要 |
本研究は、若年有期契約労働者の技能形成とキャリアラダーについて、企業側と労働者側の双方のインセンティブ構造と行為を、実証的に明らかにしようとするものである。 平成23年度および平成24年度に行った文献研究によると、契約社員や派遣社員が正社員へ転換する際、その転換先は一般的な正社員ではなく、職務や勤務地が限定される限定正社員であることが明らかとなった。そのため、本研究で契約社員や派遣社員のキャリアラダーを明らかにする際に、こうした限定正社員も射程範囲に含めることが必要であると示唆された。 また文献研究の結果、マースデンの雇用システム理論が有用であることが確認された。これによると、日本企業の正社員には職能ルール(職務が限定されない/賃金の決定根拠は人)、有期契約労働者には職務ルール(職務が限定される/賃金の決定根拠は職務)が適用されると類推される。 平成24年度は、これらを踏まえ、契約社員と派遣社員および限定正社員の実態を明らかにすべく、IT産業の中規模企業を対象とし、経営者および、そこに勤務する正社員・派遣社員・契約社員について聞き取り調査を行った。IT産業の中規模企業労働者を対象とした理由は次の点である。第一に、IT産業は新興の産業であり、中規模企業の企業数も多く、労働市場に占める割合が高まっている。第二に、ITスキルという特定の技能がベースとなり労働市場の流動性が高く、契約社員・派遣社員の技能形成を考えるうえで、重要なケースとなりうる。 これらを対象とした聞き取り研究の結果を、マースデンの雇用システム理論に基づいて分析した結果、正社員・有期契約労働者ともに、入職過程、賃金決定の面においては職務ルールであるものの、日々の業務遂行にあたっては職能ルールであるという、ねじれ現象が観察された。これらの暫定的な研究結果の妥当性についてケースを広げて実証する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書では、平成23年度には契約社員に関する文献研究と聞取り調査を行い、平成24年度に派遣労働に関する文献研究と聞取り調査を行う予定であった。しかし平成23年度内に派遣労働に関する研究成果が多数提出され、また有期契約労働法政策に関する進展もあったため、予定を変更して平成23年度は契約社員と派遣社員に関する文献研究を包括的に行い、平成24年度には契約社員と派遣社員に関する聞き取り調査を実施した。よって、現在の達成度としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、下記の手順で研究を推進する。なお、聞き取り調査については適宜パイロット調査を行い、調査票の検討を行いながら事例数を蓄積していく。 1.限定正社員及び若年有期契約労働者の技能形成とキャリアラダーに関する文献研究:引き続き、限定正社員及び有期契約労働者に関する技能形成及びキャリアダラーに関する文献研究を継続する。特に限定正社員に関する議論が活発化している現状を踏まえ、既存研究および政策議論の精査を行う。 2.限定正社員・契約社員・派遣社員の技能形成とキャリアラダーに関する実証研究(1)IT産業の中規模企業に勤務する正社員・契約社員・派遣社員の調査(企業側):IT産業で下流工程を受け持つ中規模企業数社を対象に、正社員・契約社員・派遣社員のそれぞれの職務、技能形成、処遇管理等の実態について聞き取りを行う。(2)IT産業の中規模企業に勤務する正社員・契約社員・派遣社員の調査(従業員側):IT産業で下流工程を受け持つ中規模企業数社に勤務する、正社員・契約社員・派遣社員のそれぞれについて、経歴、職務内容、技能形成、処遇、キャリアの見通し等について聞き取りを行う。(3)上記聞き取り調査結果に関して、マースデンの雇用取引ルールの観点から分析を行う。 3.限定正社員・契約社員・派遣社員との均衡処遇及び正社員/非正社員関係の再検討:聞き取り調査の結果を踏まえ、契約社員・派遣社員から正規雇用への転換の実態、有期雇用に留まる場合の生活基盤、正社員との均衡処遇、有期契約労働法制について、労働者、企業、政府等の多角的な視点から検討し、そのジレンマについて明らかにする。 4.研究の総括・成果報告:上記の研究成果をまとめて随時ディスカッションペーパー、研究論文として公表していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(未使用額)が発生した理由は、第一に、平成23年度に予定していた聞き取り調査を、平成24年度に先送りしたため、平成24年度の予算に余裕があったこと、第二に、平成24年度に行った聞き取り調査が当初予算以内に収まったことによる。 よって、次年度使用額(未使用額)と平成25年度の聞き取り調査用の経費を合わせて、平成25年度の聞き取り調査を実施する予定である。
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