本研究は、若年有期契約労働者の技能形成とキャリアラダーについて、企業側と労働者側の双方のインセンティブ構造と行為を、実証的に明らかにしようとするものである。 文献研究の結果、契約社員や派遣社員が正社員へ転換する際、その転換先は一般的な正社員ではなく、職務や勤務地が限定される限定正社員であることが明らかとなった。そのため、本研究で契約社員や派遣社員のキャリアラダーを明らかにする際に、こうした限定正社員も射程範囲に含めることが必要であると示唆された。 平成26年度は、契約社員と派遣社員および限定正社員の実態を明らかにすべく、IT産業を対象として実態調査を行った。具体的には、上流工程を担う中規模企業J社に聞き取り調査を行い、正社員のエンジニア複数名に、仕事内容、技能形成、キャリアについて聞き取り調査を行った。その結果、流動性が高いIT業界においても企業特殊的な知識が重要であることが明らかとなった。 さらに、J社の特性を明らかにするために、類似の規模同業についての国際比較を行った。中国C社、韓国K社におけるITの企業の人事管理、プロジェクトの推進方法に関するデータを収集し比較検討を行ったところ、J社における職能ルールの様相(職能資格制度と企業特殊的な技能形成)の実態が際立って明らかとなった。またJ社C社K社それぞれにおける有期契約労働者の活用の方法についても違いが見られた。J社においてはJ社が委託する協力会社において有期契約労働者が活用されていたが、C社、K社においては直接派遣会社を通して有期契約労働者または派遣労働者を雇用していた。しかしC社K社においては有期契約労働者等の質を担保することに苦心しており、大人数を採用するものの大人数が離職し、さらに大人数を再び採用するという状況が明らかとなった。
|