本研究では、経済成長著しいベトナム農村に注目し、南北デルタ地域の農村集落を対象としたフィールドワークをもとに、市場経済導入前から現在に至るまでの農村社会と住民生活、環境利用の変化がいかなるものであったのかを社会学的に明らかにすることを目的にしている。とくに、ベトナム戦争後の社会基盤整備やドイモイ政策、経済のグローバル化といった外的要因と、地域コミュニティの構造などの内的要因がどのような形で住民の生活・生業や自然観、環境利用に影響をもたらしているのかを解明し、当該地域の環境保全の在り方と社会変動を明らかにすることを目的とした。 最終年度(25年度)は、以下の2点を中心に調査・研究を進めた。 (1)ベトナム北部・フォン川デルタのハイフォン市近郊農村において、農家女性を中心とした聞き取り調査を行った。近年、同地においては、日系など外資系企業の工業団地が開発されており、農村の就業構造が大きく変化しつつある。近代化された工場で働くことによって、彼女らの生活世界や日常行動、家族の暮らし、従来の生業や農業観はいかなる変化を受けているのか。調査では、20代~50代の女性15名に対してインタビューを行った。その結果、50代の世代は、現金収入を得るためにやむを得ない消極的選択として、家族のために工場労働に従事している者が多く、全体的にはこのパターンが大半を占めるが、他方で、20代を中心に、少数ではあるが「自分の生きがいのため」という個人の自己実現を第一義に考えて工場労働を選択する人も見られた。 (2)ベトナム南部のチョガオ県の農村において継続調査を実施した。おもに輸出向けの商品作物として、従来の米作から果樹(ドラゴンフルーツ)への転作が近年顕著であるが、転作を経験した農家に対して、転作理由や情報のルート、転作前と後の農業経営や農作業の変化、農業観、施肥等による環境の変化を中心に聞き取りを行った。
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