本年度は社会的流動性を担う領域として、特に100軒ほどからなる中規模のゲーテッド・コミュニティにおいて、ガードマン、ガーデニング、清掃・ゴミ処理の委託状況について、インタビューと一次資料収集を行った。 清掃・ゴミ処理については欧米型のゲーテッド・コミュニティ(以下GCと略記)と同様に、清掃、ゴミ収集などの企業への委託がみられた。その一部には、ディベロッパーの関連会社や一部門が管理運営を行っているものもみられた。ガードマンについていえば、ディベロッパーが警察の外郭団体に依頼してガードマンを雇用し、そのことを住民に周知するなど、ガードマンの身分を保障するとともに住民に安心感をあたえるうえでディベロッパーの介在がみられるが、ガードマン諸個人の役割自体には柔軟性がみられ、集金をとおして住民と地区リーダーのやりとりの仲立ちとなることもあることが判明した。同時に、玄関の電球の交換や少量の買い物など、個人的なつながりの延長にガードマンに依頼する状況が見られた。 各世帯内においてはメイドの雇用が常態化しており、世帯内だけでなくディベロッパーによる管理の行き届かない領域、いわば「管理のグレーゾーン」が補完されている。このことは、住民同士の日常的な接触の頻度を減少させる方向に働くが、他方で、一部住民においては、むしろ自らが管理のグレーゾーンに携わることで住宅の管理をいっそう自分好みのものとしたり、他の住民との接触の社会的な緩衝地帯を形成したりするなど、生活の方向付けを可能とする事例もみられた。 本年度に実施した研究により、研究期間全体をとおして明らかとなりつつある「幅のあるゲート空間」の関連事象として、「管理のグレーゾーン」を位置付けることが可能となった。これは、欧米型GCがその内部と外部だけでなく、内部における各世帯と共用空間が明確に分離している状況と異なる特徴として、意義をもつものである。
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