本年度は、これまでの学説的検討、実地調査を踏まえ、論文の投稿、学会報告を行った。第一に、住民運動・まちづくりの一環としての街並み保存活動における主体と共同性を社会学の学説史の中に位置づけ、分析視角を明確にするために、『地域社会学における住民運動・まちづくりの事例研究の分析視角』(『地域政策研究』)を発表した。本論文では今までの多くの研究が事例報告に留まってきたことを批判的に検討し、まちづくりの担い手の意識の解明と多様な共同性の質、その形成過程を明らかにすべきことを主張した。 第二に、筆者が調査を実施してきた東京都台東区・文京区での調査結果を踏まえ、学会報告を行った(『現代都市におけるソーシャル・キャピタルの生成実践』)。当地区では街並みの保存活動が活発に進められてきたが、その基盤に人びとの日常的な関係のネットワークが張り巡らされていることが明らかになっていった。本研究では、その関係性を形成する重要な契機となっている地区の祭礼行事に注目し、どのように地域活動の基盤となる共同性が形成されているのかの調査・分析を進めた。そこから、人びとの自由な参加空間、参加者の多様な「利益」などを確保することで、地区に「ソーシャル・キャピタル」を生み出していることが明らかとなった。 第三に、台湾における日本式家屋群の保存活動を事例として、関係者がどのように対象を意味づけているのか、地域社会にどのような影響を与えているのかを考察し、報告を行った(『台湾における街並み保存活動の現状と展望』)。関係者は対象を、自然環境に親和的な住宅形式、歴史・文化遺産、地域資源など多様に意味づけており、保存活動が契機となって「ローカルな公共性」が生み出されていることも明らかになった。今後これらの事例地区での調査を継続し、現代の都市における共同性と公共性の生成過程のより詳細な検討と比較分析を進めていく予定である。
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