研究課題/領域番号 |
23730489
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
浜本 篤史 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80457928)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 住民移転 / 生活再建 / 水源地域 / 公共事業 / 立ち退き |
研究概要 |
本研究は、戦後日本のダム事業による水没住民および地域社会への影響について、申請者の事例研究と先行研究の蓄積からその経験則を一般化し、モデルとして提示することを目的としている。 そのなかで今年度は中部ダム事例を中心に進めた。中部ダム事例は中止直後、「ダム中止後の地元補償」においてモデルケースといわれた。なぜならば、鳥取県と三朝町が協同して、水没予定地区に対して謝罪し、地元とのやりとりを通じて策定した地域振興策のプランを住民が受け入れたからである。これには住民が当初要求した慰謝料は含まれていない。慰謝料という形はとらずに、水没予定地住民がダム中止後も地区を離れることなく生活していくことができるように、家屋補修や地域振興という形での「補償メニュー」が組まれたことが特筆される。 はたして、その10年後の地区の状況であるが、当事者である住民の認識に大きな変化はみられなかった。すなわち、ダムで翻弄されたことに対して行政不信は凄まじいものであったが「補償メニュー」をとりまとめる過程で行政への信頼が醸成され、実際に「補償メニュー」が現実のものとなることで、それが裏付けられていったのであった。特に、醸成された信頼感は、ほとんどの「補償メニュー」が時間をおくことなく速やかに実施されたことで、住民による信頼は揺るぎないものになっていった。一方、こうした「補償メニュー」の実施は、当該自治体にとって大きな負担に違いないが、さまざまな補助金を利用する工夫、また当時の財政状況があったからこそ可能であったと考えられる。すなわち、本事例の成功要因はただ単に「補償メニュー」の策定があったからではなく、その実施スケジュール、職員の取り組みによって構成されたものであり、地方財政面からの説明も必要であり、今後、これらの裏付けをとっていく作業をさらに進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度は、旧中部ダムおよび旧緒川ダムにおけるフォローアップ調査を主に行う予定であったが、後者については東日本大震災の影響により、北関東地方において本研究課題についての調査実施が妥当であるか状況が読めない点であり、今年度はあえて見送ることにした。この要因が本研究の進捗状況ともっとも関係する点である。 一方、前者については本研究期間に先立って予備調査を実施する機会を得られたことも大きく、想定以上の成果を得られたように思われる。文献資料もすでに一定程度以上、進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題および方法については、当初案から大きな変更はない。昨年度の実施を見送った旧緒川ダムの事例研究を進めると同時に、そのほかの関連事例について、国内外の実態把握を進めつつ、旧中部および旧緒川ダムを中心としながらも日本全体の公共事業論、さらには国外事例の視点も含めながら検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の通り、まずは旧緒川ダム研究の旅費および資料費が必要となる。また、同様に、清津川ダム、設楽ダム、大戸川ダムなどの国内書諸事例について同様の経費が必要となる見込みである。さらに、欧州におけるダム事業と水源地域活性化研究についても現地訪問の諸経費が必要となる予定である。
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