最終年度は、前年度までに引き続き、中心的な事例対象である緒川ダム、中部ダムのほか、ダム観光地としてもっとも知られる黒部ダム、50年以上前に完成した御母衣ダム、長期化したダム事業である設楽ダム、苫田ダム等での現地調査を実施し、事例調査の蓄積に厚みを増すことができた。とりわけ、緒川ダムについて、事業中止から約13年経過時点で旧緒川村の道路整備に区切りがつけられるタイミングまでをフォローし、中止後の動向について全体像を把握した。 これに加えて今年度は、当初の予定にはなかったが調査機会が得られたことから、川辺川ダム、丹生ダムの二事例を組み込むことにした。前者は、特に相良村の視点からヒアリング調査および質問紙調査のプロジェクトに参加し、後者は2014年1月に国土交通省近畿地方整備局と水資源機構によって中止方針が固まったと報じられたことから、やはりヒアリング調査を実施した。本研究で中心的な事例対象としていた緒川ダム、中部ダムはいずれも県営ダムであったが、この二事例はいずれも国による事業である。凍結/白紙化あるいは中止に至る過程が複雑であり、予定地に対する対応問題をめぐる責任主体が不明確になるという構図がある。 本研究は、戦後日本のダム事業による予定地住民および地域社会への影響について、事例研究と先行研究の蓄積からその経験則を一般化し、モデルとして提示することを目的としたものである。研究の射程には、中止後の対応に力点をおきながらも、ダム完成後の水源地域活性化という課題も含まれており、さまざまな事例研究を積み上げる必要がある。全体的には当初の見込み通りの成果を上がることができたので、今後は引き続き、諸類型のパタンをモデルとして精緻化させていくこととしたい。
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