研究課題/領域番号 |
23730490
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
櫻田 和也 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特任講師 (70555325)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オペライズモ / 社会センター / アーカイヴ / ポスト・フォーディズム / 国際情報交流 / イタリア |
研究概要 |
70年代イタリアのアウトノミア運動に先立つ理論であったオペライズモは、独自の社会調査論・社会階級論をもっていた。これが労働概念の再考を迫るフェミニズムやポスト・フォーディズム論の基礎となる。ところが一次資料が顧みられることはめったになく、近年ようやく再評価のなかイタリアでも基本文献の再版が相次ぐところである。本研究は基本文献を踏査し 1) オペライズモ研究の空白を埋め 2) 理論形成過程を検証する。次いで主に英語の二次資料から相互参照データベースを構築し、その構造的・時系列分析を通して 3) 世界的な受容過程を明らかにするものである。本年度はまず、オペライズモ研究の空白を埋めるべく計画された本研究に不可欠な、イタリア現地における一次資料の蓄積およびその管理状態を調査した。とりわけローマとミラノにある最大級の資料アーカイヴを訪問して保有資料の縦覧および目録検索方法を照会、ミラノには再調査に出向いて貴重資料を閲覧・収集した。以上の成果をもって、既存目録と照合しつつ基本文献データベースの構築に着手したところである。一方、入手資料の読解によってはじめて Quaderni Rossi 誌上で展開されたオペライズモ初期の理論形成過程を分析的に研究することができた。そこでマルクス『経済学批判要綱』の再読の果たした役割および社会学的な調査方法論について新たな知見がえられたのでそれらを論文として『現代思想』誌に公表した。ところでこうした資料アーカイヴは「社会センター」内に設置されている。これについては既発表論文、および国際シンポジウムでも紹介したところだが、オペライズモ研究会では、これを都市における自律的な空間実践として位置づける方向が地理学研究者から提起された。文献資料の時系列分析とあわせて、ディジタル・アーカイヴ時代にふさわしい時空間構造による文献研究の方法論としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では世界的な研究動向における位置をたしかめつつオペライズモ研究の空白を埋めること、その理論形成過程を検証すること、世界的な受容過程を解明すること、以上3点を目的としている。そのため資料収集に基づく文献データベースを構築し、英仏語圏への翻訳経路や相互参照の構造的分析を行ない、資料アーカイヴの管理者や翻訳・出版の主要関係者へのインタビューを重ねて裏付けるのが基本的な方法である。初年度の計画では資料アーカイヴを訪問調査し、併行して一次文献を古いものから二次文献は新しいものから収集し、書誌情報の入力を進める予定であった。資料収集についてはローマとミラノで最重要の資料アーカイヴを訪問調査し、とりわけミラノにおいては資料収集の協力もとりつけて再調査を実施したことによって予定以上の成果がえられている。ただし、実査において発見された未知の一次資料数が厖大となったため、書誌情報の整理が今後の課題である。他方オペライズモ研究会での議論を通じては、あらたに興味深い研究課題が見いだされた。それは、いわば都市における自律的な空間実践のことである。こうした研究者に利用可能な資料アーカイヴの管理・運営じたいが「社会センター」とよばれる自主管理の空間的運動に支えられており、また直接の研究対象たる過去の機関誌やテキストを出版してきた発行母体でもあるから、文献研究においても欠くべからざる視点である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり資料収集について予定以上の成果がえられたこともあって、書誌情報の整理には少々支障をきたしている。しかし、資料の収集量が予想外に多数となり入力・分析に必要な時間が不足することは研究計画時に想定された範囲内であった。これについては、進捗状況に応じて調査対象を適切に制限することをもって対応したい。さしあたり機械的に資料年代で限定してしまうのではなく、重要性に鑑みて、基本文献データベースに登録する著者をQuaderni Rossi誌の寄稿者に限定するところから着手している。第二年度には基本文献書誌データの整合性をチェックしつつ、収集済文献の参考文献リストから基本文献への言及を抽出して参照情報を入力する。こうして構築された相互参照データベースをもって、第三年度にはその時系列構造を分析する。これと併行して、英・仏語圏でのオペライズモ受容に大きく寄与した翻訳者、およびイタリアで一次資料再版にあたった編集者等へのインタビュー調査を計画どおりに進める予定である。同時に、都市における自律的実践というあらたな研究視角については、必ずしも公式に制度化されてはいない空間を対象に調査するため、現地訪問のさいには可能なかぎり写真記録を撮るようにする。以上の方法をあわせたアーカイヴの時空間的研究によって本来の研究目的を達成したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の配分については、おおむね予定どおりと見込まれる。海外現地調査2回のための旅費および資料・物品がその大部分を占めることになろう。ただし情報量が増大しているため、記録用およびデータ処理用に必要な機器の比重が高まるものと予想される。とりわけ、今後の研究方策には写真記録が不可欠となる。写真記録は、空間実践の記録のみならず文献調査そのものにも欠かせない。というのも現地での資料調査を経験してみれば文献の複写には様々な技術的困難がともなうからである。コピー機やスキャナーがその場では調達できない局面においても、フォーカスを手動で調節できる高精細なミラーレスカメラがあれば十分実用にたえうる。なおデータ入力・分析についてはひきつづき研究代表者本人が行なうつもりであるが、あまりにも研究そのものが遅滞する場合には、文献書誌情報の入力にかぎって依頼する可能性がある。その場合には訪問調査の回数をへらしてeメール等を用いた質問調査に代替し旅費をいちぶ委託費ないし謝金にまわすことになる。ただし調査対象の特殊性から、直接の訪問が望ましいことはいうまでもない。
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