研究課題/領域番号 |
23730492
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研究機関 | 仙台大学 |
研究代表者 |
リン イーシェン 仙台大学, 体育学部, 准教授 (80533025)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 華僑 / ディアスポラ / 華人 / メディア / ジャーナリズム / 移民 |
研究概要 |
本研究は三年計画(23年度-25年度)で、研究目的はディアスポラである台湾系華人ネットワークにおけるメディアの位置づけと機能の変化を探ることにある。初年度の23年度では、台湾系華人ネットワークの歴史的全貌と特徴の把握に重点を置いて研究調査を実施した。以下では、23年度で行った研究調査の内容と成果を簡潔にまとめた。 まず、23年度前半には、「台湾系華人」といった分析カテゴリーを析出するために、歴史的文献と資料収集から始めた。その際に数多くの関連文献を渉猟し、日本植民地時代に日本本土に渡ってきた台湾人のおもな軌跡を確認した。また、中国語、日本語、英語の参考文献を用いて、1945年の植民地時代の終焉とともに台湾出身者が敗戦国の「日本人」から、特別な権利を与えられた戦勝国の「中国人」となった歴史的経緯を考察し、時代的背景の把握も行った。 上述の歴史文献調査と平行した形で、フィールドワーク調査とインタビュー調査の手法を用いた研究調査も計画し、実施した。23年度6月に神戸市にある華僑歴史博物館を訪ね、当時の神戸居留地や大阪周辺に居住していた中国人と台湾人が残した戸籍史料、身分証明書、土地売買記録などの貴重な資料を閲覧した。そのほかに当時の写真や生活用品、華僑学校の教材なども実際に見学し、研究の参考資料として撮影し保存した。また、神戸大学などの関連研究施設で多く史料を閲覧した。23年度後半は横浜の中華街を生活拠点にした華僑を対象に、彼らの生い立ち、アイデンティティと言語使用の変化などの問題を中心に数回のインタビュー調査を行った。こうした一連の文献調査とフィールド/インタビュー調査を通して、戦前・戦後日本で形成した華僑コミュニティの一部を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の研究目標は台湾系華人ネットワークの歴史的全貌と特徴の把握であった。上述の研究調査とフィールド/インタビュー調査を通して、神戸と横浜における華僑・華人コミュニティとネットワークの実態把握はほぼ達成しており、24年度にはさらに長崎の華僑・華人コミュニティの調査を実施する予定である。 23年度中に達成したもうひとつの実績は、「華僑・華人」の表象を分析した論文の出版および研究成果の発表である。歴史文献とフィールドワークを通して見えてきた華僑・華人コミュニティの実態と、放送メディアによって表象されてきたそれとはどのような違いがあるのかを検証し、表象と実態の落差を確かめるためであった。そこでNHKと民間放送の映像を多く所蔵する(財)放送番組センター・放送ライブラリーの協力を得て、「華僑・華人」を取り上げた約25本の番組の内容分析調査を実施した。研究の結果でいえば、これまで多くのドキュメンタリー番組を通して伝えられてきた「華僑・華人」のイメージは、異国の雰囲気が漂う中華街、旧正月に代表される伝統行事、獅子舞、中華グルメなど、文化的、観光的側面に偏っていることが明らかになった。「華僑・華人」が背負ってきた戦後日本と中国と台湾の間における複雑な歴史的経緯、国籍問題をめぐる政治的あつれき、日本主流社会との文化や言語をめぐる排除・包摂の問題などに注目したドキュメンタリー作品は僅少であり、日本主流社会が創造し、かつ受容してきた「華僑・華人」のイメージを把握することができた。こうした放送ドキュメンタリーと社会的記憶のあり方を分析した内容は、「華僑・華人の樹」というタイトルで、2012年6月出版の『放送番組で読み解く社会的記憶―ジャーナリズム・リテラシー教育への活用』((株)日外アソシエーツ)に収録されている(57-91頁)。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、台湾系華人ネットワークにおけるメディアの成立とその言論内容を調査する予定である。台湾系華人ネットワークのなかに登場したメディア媒体―新聞、衛星放送、ラジオ、インターネット―を中心に一次資料の収集を行い、内容分析を行う予定である。その際にエスニック・メディア研究の視点から言語や送り手を台湾系華人と限定せず、日本人社会や母国や第三国の華人によるメディアをも視野に入れて検討する。その後に、現存のメディアを中心に、送り手を対象に深層インタビューを計画する。台湾系華人ネットワークにおけるメディアのマッピングを描くことを目標とし、また調査から得られた結果を論文にまとめ、学会誌投稿および学会発表を目指している。 25年度は、台湾系華人ネットワークの消長とメディアの演じる役割の分析を中心に行う予定である。23年度と24年度の研究結果を踏まえ、25年度には、受け手の台湾系華人をインタビューする予定である。インタビューは質的研究として半構造化で行う予定である。質問内容は、前年度の調査結果をもとに仮設を立て、質問項目を設定する。エスニック・メディアの機能を言語と文化の保存のほかに、同化と異化も含めて検証し、さらに集団内世論と集団外世論に与える影響を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究費について、研究計画調書に記載した項目に従って計画的に執行していく予定である。以下は各項目の説明である。 (1) 物品費:エスニシティ、ディアスポラ、エスニック・メディア、華僑華人、移民研究などのキーワードを含めた日本語、英語、中国語の参考文献や資料の購入、記録用音声機器の購入など関連物品に使う予定である。 (2) 旅費:国内(長崎、神戸、横浜)におけるフィールド/インタビュー調査、日本マス・コミュニケーション学会など関連学会や研究会の旅費として使う予定である。 (3) その他:資料データベース保存用のハードディスク、関連ソフト、プリンター用インクなどの消耗品に使う予定である。
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